揺らぐ米軍の優位、地域覇権へ野心示す中国

米中新冷戦 第1部「幻想」から覚めた米国 (4)

 2024年×月××日。中国軍は、台湾が独立を宣言するのを阻止するため、空爆やミサイルによる奇襲攻撃を開始した。台湾海軍に壊滅的な打撃を与えた後、台湾への上陸作戦を敢行。米国の介入が必要とされる緊急事態に陥った。

米原子力空母「ロナルド・レーガン」

昨年8月31日、海上自衛隊との共同訓練で南シナ海を航行する米原子力空母「ロナルド・レーガン」(米海軍提供)

 しかし、米国の国防費が抑制される一方で、増強を続けた中国のミサイルや陸海空の戦力により、西太平洋地域の大部分は、米軍が容易には立ち入ることのできない領域となっていた。

 米国防長官は、大統領に「総力を懸けた長期戦になれば恐らく勝利できるが、膨大な数の艦船や航空機、そして何千人もの命を失うことになるでしょう」と進言。大統領は、多大な犠牲を払うか、介入できずに米軍の威信を失墜させ、地域における米国の地位を手放すかの厳しい選択を迫られた――。

 これは、昨年11月に米議会が設置した超党派の諮問機関「国家防衛戦略委員会」が報告書で、今後、起こり得るシナリオの一つとして示し、米軍の置かれた現状に警鐘を鳴らしたものだ。

 報告書では、このほかに2022年、米中が貿易問題をめぐり対立を強める中、中国が南シナ海を通過する米国などの商船を制限。しかし、その頃までに中国軍による南シナ海の軍事要塞(ようさい)化はさらに進行していて、米軍は中国の行為を黙認せざるを得ない、というシナリオもある。

 これらは、第2次大戦以降、アジア太平洋地域に平和と安定をもたらしてきた米軍の優位性が揺らいでいることを如実に示した。

 近年、中国は急速な軍拡を進めてきたが、特に習近平国家主席の下、軍の近代化を加速させている。

 17年10月の党大会で習氏は、軍の近代化目標を15年前倒しして、「35年までに完成させる」とし、49年までには「『世界一流』の軍隊にする」と宣言。地域覇権への野心を露(あら)わにしている。

 こうした中国軍の実力について、米議会の諮問機関「米中経済安全保障調査委員会」は、昨年11月の年次報告書で、中国は現在、ミサイル増強などにより、伊豆諸島からグアムに至る「第2列島線」内で米軍に対抗できる力をすでに持っていると分析している。

 その上、中国は潜水艦や空母の増強により外洋海軍化を進めるなど沿岸から離れた地域での戦力投射能力の向上も図っている。こうしたことから、同報告書では、35年までには「中国軍がインド太平洋地域の全域で米軍の活動に対抗できるようになる可能性が高い」との見通しを示している。

 こうした中国の挑戦に米国は、どう立ち向かうのか。

 一つの障害となるのが、13年度から10年間にわたって国防予算に上限を設ける予算管理法が今も継続していることだ。米議会は、トランプ政権の意向を受け、同法の上限を一時的に緩和し、18年度と19年度の国防費を増加させた。

 しかし、予算管理法の上限は撤廃されているわけではなく、今後の国防費の見通しに不透明さをもたらしている。

 国防戦略委員会の報告書では、2年間の国防費増額について評価しつつも、「安定的で予測可能な追加の資源を投入しなければ、今後、米軍の優位性を維持することはできない」と指摘。予算管理法を撤廃し、与野党が今後5年間の防衛費について合意を結ぶべきだと提言している。

 政府や議会の与野党が中国軍拡の脅威への認識を共有し、より長期的な視点から米軍強化に向けた対応ができるかが問われている。

(ワシントン・山崎洋介)