米、アジアへの軍事関与強化
前米海軍制服トップ、本紙に語る
2015年9月まで米海軍制服組トップの作戦部長を務めたジョナサン・グリナート氏はこのほど、世界日報とのインタビューに応じた。核・ミサイル開発を続ける北朝鮮や覇権主義的な動きを隠そうとしない中国などに対抗するため、トランプ政権がアジアへの軍事的関与を強めるとする一方で、米国が北朝鮮を攻撃する可能性については低いとの見方を示した。

ジョナサン・グリナート氏 1953年、米ペンシルベニア州生まれ。75年に米海軍士官学校を卒業。2004年8月~06年9月まで日本の横須賀を拠点とする第7艦隊の司令官を務めた。その後は艦隊総軍司令官、海軍作戦副部長を経て、11年9月に第30代海軍作戦部長に就任。15年9月に退役した。現在はシンクタンク「全米アジア研究所」のメンバー。
グリナート氏は、トランプ大統領が各国首脳の中で日本の安倍晋三首相と最も頻繁に会談していると述べ、両首脳の良好な関係がアジアの安全保障にいい影響を与えるとの考えを示した。
中国が2030年までに海軍艦船を500隻に増やすとの予想については、「どの艦船を造り、どのような能力を持つのか注視していく必要がある」と述べ、米国をはじめアジア各国に警戒を呼び掛けた。またトランプ政権の海軍増強を支持しながらも、同盟関係の強化がより重要だと指摘。特に日本などの同盟国と「共通の防衛政策や指針を持つことが極めて重要だ」と主張、そのために情報共有やコミュニケーションを密にする必要があると訴えた。
北朝鮮の核・ミサイル開発については「状況が緊迫化している」と指摘。韓半島の非核化のために、北朝鮮や中国に対して関係各国が圧力や制裁で対応する必要があると強調した。
中国の海軍増強に注視を
日米同盟は過去最も深化へ
グリナート前米海軍作戦部長に聞く―一問一答
グリナート前米海軍作戦部長との一問一答は次の通り。
トランプ米政権はアジアへの軍事的関与を強めるのか。
軍事的関与は強めるだろう。大統領就任後すぐ日本の安倍晋三首相と会談したことからも分かるように、トランプ大統領は同盟国の重要性をよく理解している。(電話会談を含め)安倍首相とは、世界のどの首脳より頻繁に会談している。両首脳は関係が良好なことに加え、アジアにおける安全保障上の課題について同じ考えを持っており、防衛協力は深まるだろう。
トランプ氏の政策は不確実性があると言われているが、日米関係は今後どうなると見るか。
トランプ氏の政策に不確実性はあるが、日米関係に関して言えば、それは当てはまらない。トランプ氏が同盟国との関係を重視しているのは明白で、日米同盟も前例がないほど深化するだろう。その背景には北朝鮮による核・ミサイルの脅威があることは間違いない。中国の海洋進出に対する懸念でも日米は一致している。
トランプ政権は海軍艦船を350隻に増やす計画を持っているが、米海軍は最低でも355隻が必要だとしている。一方、中国は2030年までに艦船を500隻にすると予想されている。米国は中国の海洋進出にどう対処すべきか。
トランプ政権や海軍は(平和を保つために)何が必要かを知っており、増強計画は支持したい。ただ重要なのは艦船の種類で、安保上の課題に対応できるものが必要だ。海軍の増強を進める中国に対しても、今後どの艦船を造り、どのような能力を持つのか注視していく必要がある。
また艦船の数以上に重要なのが同盟国との関係だ。強固な同盟関係があれば、場合によっては海軍増強と同じことになる。特に米国の場合、日本などアジア太平洋地域の同盟国と共通の防衛政策や指針を持つことが極めて重要だ。そのためには情報を共有し、同じ青写真を描き、コミュニケーションを密にする必要がある。これを考えれば、米海軍と日本の自衛隊が過去5年間で協力関係を深めたことは良いニュースと言える。
北朝鮮の脅威に対してトランプ政権は何をすべきか。米国が北朝鮮を攻撃する可能性は。
北朝鮮の攻撃から米国や同盟国を防衛する場合を除けば、近いうちに米国が北朝鮮を攻撃する可能性は低いだろう。
ただ、状況が緊迫化しているため、北朝鮮や中国に対する圧力や(セカンダリー・サンクションを含む)制裁の強化など集団的外交アプローチは続けるべきだ。
北朝鮮の脅威から日本や地域の国々を守るために弾道ミサイル防衛(BMD)態勢の強化を進めることも必要だ。特に衛星やレーダーシステムによる情報共有が重要になる。それには日米韓の3カ国で防衛システムを構築するのが最も理にかなっている。歴史的な問題に関する感情から日韓の防衛協力を進めるのは簡単でないが、感情的な問題を乗り越えて、アジア太平洋地域の安保において何が最も重要かを考える必要がある。
(聞き手=ワシントン・岩城喜之)





