米で薄れる社会主義への抵抗感
インタビューfocus
「共産主義犠牲者追悼財団」事務局長 マリオン・スミス氏
歴史知らぬミレニアル世代
共産主義の残虐な歴史を後世に伝える活動を行っている米非営利組織「共産主義犠牲者追悼財団」が最近実施した世論調査で、米国の若い世代で共産主義・社会主義に対する警戒感や基本的知識が大幅に薄れている実態が明らかになった。同財団のマリオン・スミス事務局長は、本紙のインタビューに「冷戦や共産主義のことを教えてこなかった結果だ」と語り、20世紀の歴史教育の重要性を強調した。(聞き手=ワシントン・早川俊行)
ソ連シンパだったサンダース氏
世論調査結果をどう見る。
極めて憂慮すべき結果だ。(2000年以降に社会人になった)ミレニアル世代の過半数が、米国の経済システムは自分たちにマイナスだと答えた。彼らは資本主義に否定的である一方、社会主義に好感を抱いている。ミレニアル世代の46%が社会主義者に投票すると回答した。共産主義体制の犯罪についてもよく理解していない。

マリオン・スミス氏 米ウォフォード大学卒。ハンガリーの中央ヨーロッパ大学で修士号取得。米シンクタンク、ヘリテージ財団客員研究員などを経て2014年から現職。欧米の若者の知的交流などを進める民間団体「コモンセンス・ソサエティー」の会長も務める。
これは主に、冷戦や共産主義のことを若い世代に教えてこなかった結果だ。冷戦時代を経験した世代は、社会主義思想に否定的だ。彼らは共産主義体制の恐ろしさ、平等ではなく死と貧困と破壊と経済破綻をもたらすことを理解しているからだ。
だが、ベルリンの壁が崩れ、欧州で共産主義が崩壊してから30年近くが経過した今、若い世代は韓国動乱やベトナム戦争がなぜ起きたかを理解していない。第2次世界大戦でナチスは消滅したが、共産主義は生き続け、世界で最も強力な独裁体制になった。ソ連に代わり、今は中国が存在する。このことは若者たちに理解されていない。
世論調査では、米国民の26%が旧ソ連の独裁者スターリンよりもブッシュ前米大統領の下でより多くの人が殺されたと信じているという驚くべき結果が出た。
信じられない。仮に、ブッシュ政権下の軍事行動に伴うすべての犠牲者をブッシュ氏の責任にしたとしても、スターリン体制下で1年間に殺害された数にさえ遠く及ばない。ソ連では約3000万人が殺害されたと言われている。
民主党大統領候補指名争いで、若者の支持を集めて旋風を起こした自称・民主社会主義者のバーニー・サンダース上院議員がもたらした影響をどう見る。
サンダース氏はバーモント州の市長時代、オフィスにソ連の旗を掲げていた。妻とソ連に新婚旅行に行ったこともある。また、長年、世界中の共産主義の独裁者や革命家たちと関係を持ってきた。
サンダース氏は米政界で主流になったことはなく、常にアウトサイダーだった。サンダース氏が大統領選で主張したことは、長年、主張し続けてきたことであり、サンダース氏自身は何も変わっていない。変わったのは、若い世代が社会主義思想に非常に感化されやすくなったことだ。
サンダース氏の主張を好む若者たちは、社会主義を誤解している。サンダース氏の掲げる福祉の拡充や大学授業料の無償化は社会主義ではない。ただの高福祉国家だ。サンダース氏が危険なのは、共産主義・社会主義という言葉に対する感覚を鈍らせたことだ。共産主義・社会主義の悲惨な歴史やその言葉の意味に無知な若者が増えている。
若者は共産主義・社会主義をよく知らずにサンダース氏を支持しているのか。
大半はそうだ。だが、ミレニアル世代には筋金入りの共産主義者、マルクス主義者がいる。少数だが、その数は増えている。極めて活発なミレニアル世代の共産主義組織もある。
米国で今年発生した政治的な抗議活動の中には、共産主義組織の関与によって暴力に発展したケースがある。8月にウィスコンシン州ミルウォーキーで起きた暴動がそうだ。抗議活動のほとんどは平和的なものだが、共産党組織の人間がやってきて混乱を煽(あお)るケースが見られる。
経済格差への不満から若い世代で資本主義に否定的な見方が強まっている。
世論調査では、高所得者は公平な負担をしていないと答えた人の40%が「経済システムの完全な変革」を求めた。これは米国の経済システムに対する理解の欠如を示すものだ。米国のシステムが不完全であることは事実だが、歴史上、どのシステムよりも多くの人々に繁栄と機会をもたらした。若者たちにはこのことを理解してもらいたい。
2008年以降の遅い経済回復に起因する所得格差や就職難を見れば、米国の経済システムは不完全だ。だが、このシステムを改善・強化すべきであって、破壊して社会主義システムを試みる方向に進んではならない。
過去100年間で40カ国近くが社会主義システムを試みたが、すべて経済的に破綻するか、全体主義的警察国家になっている。若者たちがこの事実を知れば、社会主義システムを望むことはないと思う。
若い世代にこれをどう教えていくか。
われわれの財団では最近、高校教師を教育する新たなプログラムを立ち上げたところだ。教師たちをワシントンなどに招いて(共産主義国の)反体制派や歴史家、専門家らを紹介し、20世紀の歴史を正しく教えられるように支援していく。また、全米の大学キャンパスでさまざまなイベントを開いている。これらの教育プログラムが世論調査で示された問題の改善につながってほしい。










