米国の分断と大統領選

インタビューfocus

道徳的に崩壊する社会

麗澤大学准教授 ジェイソン・モーガン氏

 米国内の政治的分断が深刻なレベルにまで先鋭化する中で行われる11月の大統領選は、米国にとってどのような意味を持つのか。ジェイソン・モーガン麗澤大学准教授に聞いた。(聞き手=編集委員・早川俊行)

麗澤大学准教授 ジェイソン・モーガン氏

 Jason Morgan 1977年、米ルイジアナ州生まれ。ハワイ大学で修士号、ウィスコンシン大学で修士、博士号を取得。現在、麗澤大学国際学部准教授。著書に『歴史バカの壁』『リベラルに支配されたアメリカの末路』など。

トランプ大統領は、今回の大統領選を「米国の生き残りを懸けた選挙」と位置付けているが。

 その通りだ。米社会は崩壊しつつある。経済的にではなく道徳的にだ。国歌斉唱時に膝をつく運動が長く続いているが、これほど露骨に米国を侮辱する運動が受け入れられていることに、私も驚いている。

 一部の州議会議事堂にはサタン(悪魔)像が設置され、サタン研究会のある小学校もある。図書館では女装した男性による読み聞かせ会が開かれ、子供たちを洗脳している。教会に通う人は減り、子供たちは基本的な善悪すら教えられなくなった。

 対外的には、中国との戦争に向かっている。米国民は目を覚まし、戦争が近づいている現実に気付かなければならない。

 民主党候補のジョー・バイデン氏は、ワシントンのエスタブリッシュメント(既得権益層)を代表する人物だ。息子が中国やウクライナと取引するなど汚職政治家の典型だ。そのようなワシントンが続けば、米国の雇用は中国に奪われ続け、米国民は中国の奴隷になりかねない。

 トランプ氏は変人だ。だが、ワシントンを止めるという意味では有益な人物だ。ゴジラを止めるモスラのような存在だ。

人種差別反対を訴える「黒人の命は大切(BLM)」運動が広がり、各地で暴動や略奪など破壊行為が起きている。フランス革命のような暴力革命の印象さえ受ける。

 フランス革命では、貧しい民衆と貴族の対立が革命の発端となった。だが、米国ではすべての人がある程度裕福であるため、階級問題で革命を起こすのは難しい。グローバリズムが米経済を蝕(むしば)んでいるのは確かだが、階級意識は非常に薄いと思う。だが、米国には人種問題という致命的な弱点がある。米国の革命家たちは、人種問題を利用して革命を起こそうとしている。

 BLMを創設した3人の女性は皆、マルクス主義者だ。だが、その背後にいるのは、1960~70年代に活動したマルクス主義テロ組織「ウェザー・アンダーグラウンド」のメンバーで、彼らが真の創設者だ。

 BLMの戦略が巧みなのは、「警察=レイシスト」と結び付けたことだ。まず警察という革命の障害を片付けてから、革命に取り掛かるという戦略だ。

 歴史的人物の記念碑を破壊したり、ワシントン記念塔の名称を変えようとする動きがあるが、これは文化革命だ。米国という国を完全に覆そうとしている。その革命が成功すれば、今までの米国は終わりだ。米国はナチス・ドイツのような最悪の国だったと見なされるようになる。

バイデン氏が大統領になったらどうなるか。

 バイデン氏は副大統領時代、不適切な発言が多かったが、今は明らかに認知症が進んでいる。事実上の大統領は副大統領のカマラ・ハリス氏になる。ハリス氏はカリフォルニア州の検事時代、犯罪に厳しい姿勢を示していたが、今は逆だ。権力を握るためなら何でもする、理念のないご都合主義者だ。

 常に革命、革命と言っていたバーニー・サンダース上院議員が今は静かにしている。バイデン氏という穏やかに見える人物を前に出し、裏では過激派が自由に活動している。トランプ氏はバイデン氏を極左勢力の「トロイの木馬」と呼んだが、その通りだ。

「内戦」に本格突入の恐れ

大統領選が終われば、暴力は収まるだろうか。

 米社会は既に内戦状態だ。過激派はバイデン氏が大統領に選ばれなければ、暴力が続くと脅している。人質状態の選挙だ。

 トランプ氏が再選されたら、本格的な内戦に突入する可能性がある。オレゴン州ポートランドなどで続く暴動が全米に広がることが考えられる。

 私がかつて大学キャンパスで見た極左組織「アンティファ」の学生たちは、軍事訓練などは受けていなかった。しかし、ポートランドやシアトルでアンティファを見た元特殊部隊の友人によると、軍事訓練を受けた行動だったという。もし内戦になれば、本格的な戦いになる。彼らは今、銃などの武器を蓄えているのではないか。

新型コロナウイルスの影響を受ける今回の大統領選では、民主党の要求で郵便投票が全国的に拡大されているが、選挙結果の遅れなど混乱が生じる恐れがある。

 混乱を生み出すのが目的だ。仮にトランプ氏が再選されても、正統な大統領とは言えないような状況をつくり出す。さらに、混乱を利用して革命を起こすのが最終作戦だ。

 ベラルーシの大統領選で不正があったが、米国も同じようなレベルに陥っている。米郵政公社(USPS)の労働組合はずっと民主党支持だ。そのような組織が選挙を担当すること自体がおかしい。

カリフォルニア州で今月、警官2人が何者かに銃撃され病院に搬送された際、病院に押し掛けたデモ隊が「死んでほしい」と叫んだ。米国民の道徳心はなぜここまで落ちてしまったのか。

 私もそれを聞いてショックを受けた。そこまでひどいのかと。今の米国には人種差別の制度はなく、頑張れば誰でも成功できる社会だ。だが、市民の間にまで、自分は社会の犠牲者だという被害妄想が広がってしまっている。

 文化的影響も大きい。警官を殺すことを奨励するようなとんでもない歌詞のラップ音楽が流行した。インターネットの普及に伴い、ポルノも蔓延(まんえん)した。

 同性婚も認められてしまった。同性婚の目的は結婚ではない。結婚という制度を破壊するためだ。BLM運動と同じように、苦しんでいる人を利用して社会の基盤を崩壊させることが目的だ。

 米国の道徳はこの30年、さまざまな側面から攻撃を受けてきた。

米軍は保守的な組織だという印象があったが、それも変わってしまったのか。

 残念ながらそうだ。米軍も社会から切り離されているわけではなく、彼らもその影響を受けている。特に若い世代がそうだ。今の米軍では、リベラルでないと出世できない。

米国は日本の最重要同盟国だが、内部崩壊が進む米国はもはや頼れないということか。

 米国は帝国だ。帝国は他国のために動かない。今の米国では、日本が助けを求めても来られないのだが、今までも助けに来るつもりはなかったと思う。これからも米国は助けに来ないと考えた方がいい。

 テレビ番組に出演した時、元駐米大使が日米同盟が軸だと言うのを聞いてがっかりした。なぜ外国との同盟が軸なのか、理解できない。

 日本という国はすごい国だ。坂本龍馬、西郷隆盛の国だ。800年前にモンゴルから国を守った「防人(さきもり)」の国だ。ほとんど資源がないのに、ロシアに立ち向かって勝利した国だ。日本は自分で十分守ることができる。日本人が自分たちの可能性に気付いていないことが残念だ。