米朝非核化交渉の行方
核実験など挑発の再開も
ワシントン・タイムズ紙安全保障部長 ガイ・テイラー氏
 米国と北朝鮮の非核化交渉が一向に進展しない。その背景や今後の展望、次期米大統領選が及ぼす影響などについて、米紙ワシントン・タイムズのガイ・テイラー安全保障部長に聞いた。
(聞き手=編集委員・早川俊行)
米朝の非核化交渉が進展しないのはなぜか。
ある。
第一の理由は、北朝鮮が交渉に極めて消極的であることだ。北朝鮮は、非核化交渉を進めることはリスクが大きいとみている。
第二に、トランプ政権にも責任がある。政権内にはビーガン北朝鮮担当特別代表をはじめ優秀な人材が多くいる。だが、トランプ大統領の関心事はトップダウンの首脳会談で、実務者協議にはあまり興味がない。このため、北朝鮮は実務者協議を進めることに圧力を感じていない。
第三に、トランプ政権と韓国の文在寅政権はあまり緊密ではない。韓国は北朝鮮との関係改善を進めているが、トランプ政権は韓国と協力し、これを生かそうと思っていない。
北朝鮮は年末を非核化交渉の期限としているが、合意に達する可能性は。
期限まで1カ月しかなく、実務者協議も行われていない。非核化が何を指すのかさえも、依然はっきりしない。米国は完全な決裂を避けるために何らかの提案を行うとみられるが、時間的に大幅な進展は難しいだろう。
年内に合意に達しなかった場合、北朝鮮は再び挑発行為に出るだろうか。
北朝鮮は2020年に米国で選挙があることをはっきり認識している。北朝鮮は自分たちの力を示すために、長距離弾道ミサイル(ICBM)の発射や核実験を行うことは十分考えられる。
北朝鮮は核実験と長距離ミサイルの発射を控えるというトランプ氏との約束を守っているが、短中距離ミサイルの発射を繰り返し、トランプ政権はこれを事実上黙認している。
トランプ政権がこれらの発射の危険性を軽視しようとしているのは間違いない。政権内には国連決議違反だと主張する高官もおり、危険性が認識されていないわけではない。だが、トランプ政権には北朝鮮にチャンスを与えたいという意識が極めて強い。
対北強硬派のジョン・ボルトン米大統領補佐官が解任されたことで、米国の交渉戦略は変わるか。
トランプ政権内ではビーガン氏の影響力が拡大している。ハノイでの首脳会談が決裂したのは、「オール・オア・ナッシング」のアプローチだったからだ。このアプローチを主導したと言われているのがボルトン氏で、「ビッグディール(大きな取引)」か「ノーディール(取引なし)」のどちらかというものだ。
これに対し、ビーガン氏は段階的アプローチに前向きだ。トランプ政権が実際に北朝鮮が求める段階的アプローチに応じるかどうかは、まだ見えてこない。
次期大統領選で再選を目指すトランプ氏にとって、北朝鮮との直接対話は主要な外交成果という位置付けだ。
米外交における最大の弱点の一つは、選挙政治だ。選挙では主張が誇張されることが多く、これは戦略的にデリケートな外交政策を進める上でプラスではない。
トランプ氏の主張を聞いた北朝鮮は、「われわれはトランプ氏に再選に必要なものを与えている。それ以外に何を与える必要があるのか」と捉えている可能性がある。もしそうなら、これは米国の立場を損ねている。
トランプ氏が外交成果を維持するために大幅な譲歩をする恐れはないか。
譲歩が何を意味するかだが、制裁緩和は受け入れないだろう。
米政権内では意見が分かれており、既に北朝鮮に譲歩しているとの主張がある一方、連絡事務所の設置や米国人の北朝鮮渡航制限の緩和などに前向きな意見もある。
韓国が日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を土壇場で撤回した。
日米韓3カ国の同盟は当面、惨事を回避した。前向きな展開であることは確かだ。トランプ政権はこの機会を生かし、日韓が正しい決定を下すよう対話を促すべきだ。
GSOMIAは、米国にとって北東アジアで同盟間協力を拡大するシンボルだ。
このシンボルが崩れれば、中国が米国のパワー低下を示すものと受け止めることが懸念される。
また、米朝交渉が停滞を続け、北朝鮮が挑発行為をエスカレートさせた時、GSOMIAが戦術的に重要になる。日韓は政治的障害を抜きにして、情報共有能力は維持すべきだ。
トランプ政権は韓国に対し、在韓米軍駐留経費の韓国側負担を5倍に増やすことを求めている。
トランプ氏は米国の有権者に、自分は同盟国により多くの防衛費を払わせたと言いたいのだろう。だが、トランプ政権はこの要求が韓国内の政治状況にどのような影響をもたらすかを考慮していない。
韓国の与党「共に民主党」によって反米感情を煽(あお)る材料として利用される可能性がある。野党もこの問題では与党と足並みを揃(そろ)えている。韓国政府は徐々に負担を拡大していくことには応じるつもりだが、このような劇的な拡大は行き過ぎだと思っている。











