ウクライナ艦拿捕、露の主張は受け入れられない
ロシアが併合したウクライナ南部クリミア半島とロシア本土を隔てるケルチ海峡で、ロシア警備艇がウクライナ海軍の艦船3隻を拿捕(だほ)したことで両国間の緊張が高まっている。
クリミア併合後に「領海」
ロシア警備艇は黒海沿岸のオデッサからアゾフ海沿岸のマリウポリに向かっていたウクライナ海軍の小型艦船2隻とタグボートに対して発砲し、これらの艦船を拿捕。ウクライナ兵士24人が拘束された。
これを受け、ウクライナは対ロシア国境地域で30日間の戒厳令を導入した。ウクライナのポロシェンコ大統領は「海軍艦船への攻撃により(ロシアは)侵略を新たな段階に移行させた」と非難するなど対決姿勢を強めている。
ケルチ海峡をめぐっては、ロシアとウクライナが2003年に結んだ協定で両国の船舶の航行の自由が保障されている。ところがロシアは14年のクリミア併合後、この一帯を自らの「領海」と主張。ロシア漁船がアゾフ海でウクライナ側に拿捕された今年3月以降、ウクライナ船舶への臨検を強化していた。
ロシアによるクリミア併合は国際法に違反するものだ。ロシアの「領海」主張やそれに基づく行動を受け入れることはできない。
もっとも今回の問題については、来年3月のウクライナ大統領選で再選を目指すポロシェンコ氏が、低迷する支持率を上げるために情勢を緊迫化させる思惑があったとの見方もある。ロシアだけでなく、ウクライナにも自制が求められるのは当然のことだ。
ロシアはクリミアを併合したほか、ロシア系住民の多いウクライナ東部に軍事介入し、欧米の経済制裁を受けている。今回の問題に対しても、欧米は一斉にロシアを批判した。
国連安全保障理事会の緊急会合で、ヘイリー米国連大使は「ウクライナの主権領域に対する言語道断な侵害」と非難。また、欧州連合(EU)のトゥスク大統領はポロシェンコ氏との電話会談で「ロシアの武力行使を非難する」と表明して「欧州は団結し、ウクライナを支持する」と強調した。ロシアが強硬な態度を変えないのであれば、制裁強化も検討すべきだろう。
一方、日本はこの問題でロシアへの非難を避けている。北方領土の交渉本格化をにらみ、ロシア側を刺激しないよう配慮しているためとみられるが、クリミアと北方領土は共にロシアに不法占拠されているという点で共通している。
本来は、日本こそが最も強くロシアを批判すべきではないのか。日本は、東シナ海では沖縄県・尖閣諸島の領有権を一方的に主張して尖閣周辺の領海侵入を繰り返し、南シナ海では軍事拠点化を進めて航行の自由を脅かしている中国の「力による現状変更」にも反対する立場のはずだ。
首相は乗員の解放求めよ
安倍晋三首相はきょうからアルゼンチンで20カ国・地域(G20)首脳会議に参加し、ロシアのプーチン大統領とも個別に会談する。北方領土返還と共にウクライナの乗員・艦船の解放を強く要求しなければならない。