入管法参院へ、「移民」に拙速審議は禍根残す
外国人労働者の受け入れを拡大する出入国管理法改正案が衆院を通過し、参院で審議入りした。政府は来年4月から5年で最大34万人を受け入れると試算し、業種別見込み数も提示している。事実上の移民政策導入の端緒とみられる法案に、十分な審議が尽くされていない状況は、国内で外国人受け入れへの賛否をめぐる対立を際立たせることになり、将来に禍根を残しかねない。
衆院審議はわずか17時間
法案では、労働現場で相応の経験・知識を積んだことを認める「特定技能1号」の在留資格を取得すれば最長5年在留でき、さらに熟練した技能を身に付けたと認定する「特定技能2号」を取得すれば在留期限は撤廃される。つまり、熟練労働者になり試験に合格すればいつまでもわが国に在留できる。
しかし、雇用は景気に左右される。モノを生産し、サービスを提供する業界にも流行の波があり、採用されることもあれば解雇されることもある。まして自国以外での労働を望む外国人たちは、出身国の政情不安、経済難から逃れようとするなど深刻な事情を抱えているケースも多く、人種、宗教、文化、言語、生活様式などの違いからさまざまな配慮も要る。
一方、日本社会においても外国人旅行客は増加しているものの、働く外国人と社会や生活空間で接することを受容する意識が成熟したとは言えない。時事通信社の10月の世論調査で、外国人労働者や移民を「積極的に受け入れる」と回答したのは14・6%と低かった。
このような状況で、衆院法務委員会における法案審議はわずか17時間で、野党議員が委員長席に詰め寄る中、騒然とした採決となった。拙速と言われても仕方ない。外国人労働者も、国論の一致を図って日本に迎え入れてもらいたいだろう。まず、その努力を与野党は心掛けるべきで、受け入れる以上は準備万端とする必要がある。
法案に反対する野党は政府・与党を罵倒するパフォーマンスばかりが目立つが、立憲民主、国民民主、共産、社民の各党は有力な支持労組を持っており、労働問題での論点をしっかりと示しながら熟議を行うべきだ。
法務省は新たな在留資格による外国人労働者の受け入れ見込み数を14業種に5年で34万人を上限としており、その目的は当然、生産性の向上にある。介護業、ビルクリーニング業、産業機械製造業、建設業、農業、飲食料品製造業などで外国人労働者を新しい仲間として迎え、国内産業持ち前の現場力を維持していくには、品質や生産性の向上に向けた学習と技能習得、チームワークが欠かせない。
迎え入れる環境整備を
外国人をそのような戦力に育て上げ、職場に迎え入れる環境ができなければ、言語・習慣の違いなどで、お荷物扱いにされる可能性もある。疎外感を感じる人が増えて外国人問題が日本社会で深刻化しかねない。
政府・与党の法案提出が示すように、外国人労働者受け入れは長期的に人口減少に向かうため必要であることは否めないが、両刃(もろは)の剣となる恐れもある。国会での熟議を願いたい。