ロシアとの領土交渉を置き去りにするな


 ロシアのプーチン大統領はロシア憲法創設20周年記念日の12日、クレムリンで年次教書演説を行った。国内問題では「極東やシベリアの発展は21世紀全般にわたる国家の優先課題だ」と強調した。

 極東やシベリア地域の開発は日本とロシアとの経済協力の柱となるものである。しかし、経済協力のみが進み、北方領土交渉が置き去りにされることがあってはならない。

極東の特区設置を提案

 大統領は同地域の経済活動を活性化させるため、新規参入する企業には5年間の法人税や土地保有税の免税措置が受けられる経済発展特区設置の計画を提案した。石油、ガスを除く資源採掘税も免除される。特区の場所と法整備は2014年7月1日までに決めるという。

 また、「経済成長の鈍化の基本的な原因は国内にあり、国外ではない」と言明し、幅広い経済対策を打ち出す方針を示した。ロシア政府は12月初め、13年の国内総生産(GDP)実質成長率の予想を1・8%から1・4%に引き下げた(昨年実績は3・4%増)。

 経済成長の促進策としては「まず資源分野以外の輸出支援が課題だ」と述べ、輸出の大半を占める石油・ガスといったエネルギー資源への依存脱却を急ぐ考えを表明。具体的には、14年3月1日までに新たな輸出支援への行動計画を策定するように指示した。

 さらに「ロシアが太平洋に向いていくことは、経済の新たな可能性を切り開くとともに、対外政策を積極的に展開する手段になる」と述べ、この地域の経済発展をアジア太平洋地域への影響力拡大につなげたい意向を示した。

 外交分野ではシリア問題で、紛争解決に向けた「ロシアの貢献も大きかった」と自賛した。しかしシリアの内戦は続いており、内戦による死者は12万人を超えた。シリアのアサド政権は化学兵器の廃棄を進めているが、反体制派を徹底的に弾圧する姿勢は変わらない。

 ロシアは、シリアに地中海唯一の「足場」である海軍施設などの権益を持つため、アサド政権を擁護してきた。しかし、内戦終結にはアサド政権の退陣が欠かせない。ロシアは影響力を行使すべきだ。

 外交問題に触れた中で、4月、6月、9月、10月と今年4回もの首脳会談や11月の東京での「2+2」など頻繁な人的(閣僚)交流にもかかわらず、日本への言及はなかった。

 もっとも、ロシア極東地域では人口減少に歯止めが掛からない一方、アムール川を挟んで接する中国の人口圧力が高まっている。

 このため、ロシアには日本の投資を呼び込むことで極東経済を活性化させたい思惑がある。日本は対露外交で、こうしたロシア極東の情勢を念頭に置く必要がある。

首脳同士の信頼強化を

 これまでの北方領土交渉で、ロシアは経済協力だけを進展させてきた。

 安倍晋三首相はプーチン大統領と首脳同士の信頼関係を強化することに努め、領土交渉の進展を図るべきだ。

(12月24日付社説)