ロシア自爆テロ、わが国も対策を強化せよ


 ロシア第2の都市サンクトペテルブルクの地下鉄で自爆テロが起き、13人が死亡、およそ50人が重軽傷を負った。当局は共犯者とみられる8人を拘束しており、組織的な犯行である可能性が高まった。過激派組織「イスラム国」(IS)との関連についても捜査を進めている。

 テロの脅威はわが国にとっても他人事ではない。対策を強化すべきである。

中央アジア出身者の犯行

 チェチェン紛争の開始以降、ロシアでは多くの市民を巻き添えにしたテロ事件が発生してきた。人質129人が死亡したモスクワの劇場占拠事件や、地下鉄を狙った自爆テロは記憶に新しい。ロシア南部・北オセチア共和国で起きたベスラン学校占拠事件では、児童186人を含む約400人が犠牲となった。

 このような中でも、ロシアの北の首都と呼ばれるサンクトペテルブルクは平穏だった。武装勢力の拠点がある北カフカス地方から見て、サンクトペテルブルクはモスクワのさらに先に位置する。政権を揺さぶるならば首都モスクワを狙うことが効果的だ。サンクトペテルブルクでテロを実行する必要性は低かったとみられる。

 だからこそ、今回の自爆テロはロシアに大きな衝撃を与えた。プーチン大統領はベラルーシのルカシェンコ大統領との会談のため同市郊外に滞在しており、大統領の滞在中を狙った犯行ともみられている。

 さらに衝撃だったのは、容疑者がチェチェン武装勢力とは無関係の中央アジア出身者だったことだ。アクバルジョン・ジャリロフ容疑者はキルギスで生まれたが、幼少の頃、両親とともにサンクトペテルブルクに移住し、ロシア国籍を取得した。

 独立国家共同体(CIS)諸国の人々はロシアにビザなしで入国できる。多くの中央アジア出身者がロシアで建設作業員や清掃作業員などとして働いている。ほとんどが低賃金労働者でロシア社会の底辺を形成する。外国人排斥を叫ぶネオナチやスキンヘッズなどによる襲撃の犠牲になることもあり、ジャリロフ容疑者がロシア社会に恨みを持ってもおかしくはない。

 当局は共犯者とみられる8人を拘束した。彼らの住居などから、ジャリロフ容疑者が別の駅に置いたとみられる不発の爆弾と同じ型の爆発物や銃器が見つかったとされ、組織的な犯行であった可能性が高まっている。

 ジャリロフ容疑者は2月にキルギスに帰郷して約1カ月間を過ごして以降、「無口で内向的になった」という情報があり、当局はイスラム過激派からの勧誘があったとみて捜査している。容疑者の故郷であるキルギス南部はイスラム過激派の活動が活発なことで知られている。

 一方、有力紙イズベスチヤは未確認情報として、ジャリロフ容疑者がISの戦闘員として、シリアやイラクで戦闘に参加していた可能性があると報じた。

テロ等準備罪の創設を

 テロの脅威は、2020年に東京五輪・パラリンピックを開催するわが国にとっても他人事ではない。「テロ等準備罪」の創設を柱とする組織犯罪処罰法改正案の審議を粛々と進め、テロ対策に万全を期すべきである。