プーチン大統領は自ら招いた孤立を自覚せよ


 ロシアの首都モスクワ「赤の広場」で、旧ソ連の対独戦勝70年記念軍事パレードが行われた。過去最大規模の軍事パレードで国威発揚に努めたが、これを観閲した首脳級は、旧ソ連圏を除けば旧共産圏など十数カ国だけだった。プーチン大統領はウクライナ問題で自ら招いた国際的孤立を自覚すべきである。

 外国首脳の出席はわずか

 10年前にモスクワで行われた対独戦勝60周年記念式典には、当時の小泉純一郎首相をはじめ、ブッシュ米大統領など56の国・地域・国際機関の首脳級が参加した。中央アジア諸国などからは政府首脳・要人に加え、対独戦を戦った多くの退役軍人が招待され、共に勝利を祝った。

 当時のホストもプーチン大統領であり、その光景を忘れてはいないだろう。

 今回の式典でロシアは、68の国や国際機関に招待状を送ったが、出席はわずか20。プーチン大統領は「共に戦った米英仏国民らに感謝する」と表明したが、その米英仏を含む先進7カ国(G7)首脳は欠席した。ロシアと極めて緊密な関係にあるベラルーシのルカシェンコ大統領も、早々に欠席を表明した。

 最新鋭兵器を投入した過去最大規模の軍事パレードは、国際的な孤立を露呈する場となった。その原因を、誰よりもよく知っているのはプーチン大統領だろう。自ら指示し実行したウクライナのクリミア編入、そして、ウクライナ東部の親露派武装勢力を支援し、政治的な東西分断を恒久化しようという試み――。

 ウクライナ東部の紛争は始まってから1年以上が過ぎ、数万人とされる死者を出した。軍事介入したロシアは内戦と強調するが、実態は重火器を投入して民間人を巻き込んだ地上戦だ。今年2月に停戦合意が発効したが、いつでも再燃しかねない。

 プーチン大統領は多くの理由を挙げてクリミア編入を正当化している。しかし、1997年に締結した友好協力条約・地位協定で、ウクライナの領土保全を約束したのはロシア自身ではないのか。ロシアのクリミア編入が、国際社会全体の根本的利益を侵害する重大な国際法違反であることは明白な事実だ。

 プーチン政権はマスコミ統制を進め、主要な全国ネットテレビ局は国営もしくは政府系企業の傘下に置かれている。また、与党に有利な選挙法改正で改革派野党は議席を失った。都合のよい情報だけを国民に与え、プーチン大統領は依然として8割を超える支持率を保っている。

 しかし、そのような情報操作は、国外には通用しない。近い関係にあった旧ソ連諸国さえもロシアに距離を置いている。

 一方、プーチン大統領は、式典に参加した習近平中国国家主席との蜜月関係を演出し、最低限の面目を保った。しかしその中国は、欧米の経済制裁や原油安で弱体化するロシア経済を尻目に、ロシアの影響圏にある中央アジア諸国との関係を拡大しつつある。

 責任ある行動を望む

 国際的孤立を露呈した今回の式典から、プーチン大統領は学ぶべきだ。ロシアが国際社会で責任ある国家として行動することを、われわれは望んでいる。

(5月14日付社説)