安保法制、早期対応を妨げかねない


 自民、公明の両党が安全保障法制関連法案で合意した。公明党の歯止めと称する制約を大幅に認めたため、法案の内容が複雑になっているだけではない。法が想定する事態に直面した際に適用が大幅に制限される内容になっている。

 これでは安倍晋三首相の掲げる積極的平和主義も言葉の上だけのものになりかねない。

 事前承認が派遣の条件に

 その第一の問題点は、他国軍への後方支援を随時可能にする「国際平和支援法案」について、国会の事前承認を自衛隊派遣の条件としている点である。国際社会の平和、秩序の混乱は、その予兆が明白に認識されるとは限らない。それに平和回復のための措置は、緊急を要する場合が多い。

 この点は個人の健康阻害・回復の場合と同様だ。国際社会は複雑な要因が絡んでおり、予兆を見逃す場合が少なくない。テロ集団「イスラム国」の勢力急拡大はその典型例である。また、早期の対応が必要なのも言うまでもない。

 一国の軍事組織を外国に派遣する際も、国民の支持が不可欠である。このため、国会の承認を得ることは必要である。だが事前承認となると、タイムリーに得られるかどうか、野党第1党の民主党の状況を念頭に置くと疑問である。

 長い不毛の議論の結果、遅れて少数の自衛隊を派遣し、しかも戦闘行動はいたしませんと言うのでは、日本の平和への熱意を疑われよう。

 日本有事には、米国をはじめとする諸国からの軍事支援が不可欠である。その際、国際社会の平和維持・確立に消極的な日本を、積極的に支援してくれると考えるのは厚かましいのではないか。

 また、派遣には安保理等の国連決議が不可欠としている。だが、クリミアやコソボに見られるように、拒否権を持つ常任理事国が絡んでいるケースでは安保理決議は期待できない。国際社会に大きな悪影響を与える事態の場合、常任理事国が関与していることが多い。

 それよりも重要なことは、派遣自衛隊の作戦指揮権に関する規定である。国際慣習法に従って、派遣自衛隊は多国籍軍等の指揮に従うという点を明確にすべきである。これまでは日本だけが特別扱いされてきたが、何時までもこれに甘えるべきではない。

 集団的自衛権の行使絡みでも「存立危機事態」の定義などで制約を課している。だが、これらの事態は、その時々の武力紛争によって異なる。前もって法律で厳密に定義を下したりできるものではない。

 制約課せば自衛できない

 個別的、集団的自衛権の容認は、“所期の自衛確保”を約束するものではなく、権利を認めているだけだ。国際社会で求められている緊要性、比例性の原則以外に制約を課すと、自衛の戦いは必ず敗れることになる。自衛の武力行使は、侵略国と同じ国際武力紛争法(戦時国際法)の適用を受ける。

 侵略国であるからハンデを課され、自衛国だから恩典を受けるわけではないことを想起すべきである。

(5月13日付社説)