英保守党政権、難題解決へ問われる指導力


 英国の下院総選挙で、与党・保守党が単独で過半数の議席を獲得した。キャメロン首相がさらに5年間続投する。英国は安保条約でわが国と固く結ばれている米国の同盟国だ。英国での保守政治の安定は日本にとっても歓迎される。

 しかし、欧州連合(EU)離脱問題など難題も抱えている。政権基盤が固まったこの機会に、こうした問題を円満に解決し、安定した世界秩序形成を目指す米国を助けて国際的な指導力を発揮してほしい。

 経済回復が選挙の勝因

 今回の保守党の圧勝は予想外のものであった。最大野党・労働党は歴史的敗北と評されるほど大きく議席を減らした。

 勝因は国内経済の回復を達成したことだと言えよう。労働党はキャメロン政権の緊縮財政で貧富の格差が拡大したと批判したが、昨年の英国の国内総生産(GDP)の成長率は主要7カ国(G7)トップの2・8%だ。国民は保守政権の実績を評価したとみてよい。

 さらに、選挙戦術が奏功したことが挙げられる。保守党は、労働党が政権交代を実現するため、昨年の住民投票で独立運動を主導したスコットランド民族党(SNP)と協力する恐れがあると訴え、国の分裂を招きかねないとして有権者の危機感を強めることに成功した。

 だが、新政権が取り組むべき課題は多い。第一は対EU関係だ。キャメロン首相は2017年末までに、EUからの離脱の賛否を問う国民投票を実施する方針を打ち出している。もし離脱となれば、EUへのダメージは計り知れないほど大きい。英国のEUへの資金拠出額は加盟国の中で4番目に多いからで、注目の的だ。

 英国ではEU各国からの移民の増大で国内の雇用が奪われたり、医療や学校などの公共サービスが圧迫されたりしているとの批判がある。キャメロン首相は移民の制限などでEUと交渉する考えだ。しかし、うまくいかなければ国内で反EU世論が高まり、国民投票でEU離脱という結果が出る可能性もある。英国が離脱すればEUの結束にひびが入り、域内経済運営は困難となろう。

 第二はスコットランド独立問題だ。今回の選挙でSNPは議会第3党へと躍進した。同党はキャメロン首相の財政緊縮策に対決姿勢を示しているだけでなく、一層の自治権拡大を求めている。

 スタージョン党首は、選挙の結果を受けて「われわれの仕事はスコットランド住民の権利を守ることだ」と宣言している。昨年の住民投票で独立は否決されたが、機運が高まり、再び住民投票へと向かう可能性は否定できない。

 スコットランドとの関係をどうするか、キャメロン政権にとって頭の痛い課題となろう。

 打撃大きいEU離脱

 保守党の勝利によってEU離脱の声がさらに強まることで、国民投票の実施は不可避とみられる。しかし、英国の輸出の半分はEU向けだ。離脱による英国経済の損失はGDPの3%、約8兆円に上るとも言われ、打撃が大きい。キャメロン首相の手綱さばきが問われる。

(5月15日付社説)