9条改正を正面から論じよ
衆院憲法審査会で、昨年12月の衆院選によって中断していた実質討議が再開された。来年夏の参院選後の憲法改正発議を目指す自民党は、緊急事態条項など3項目の議論を優先するよう提唱し、与野党の激突が予想される9条についての論議は後回しにされた。
しかし、自民党が2012年に発表した改憲草案は国防軍創設を明記している。9条改正を正面から論じるべきだ。
実績づくりを狙う自民
集団的自衛権行使を可能とする安全保障関連法案が閣議決定された。中国の海洋進出や北朝鮮の核・ミサイル開発などで、わが国を取り巻く安全保障環境は悪化している。国会で法案が成立すれば、抑止力が高まるとともに国際社会の平和と安定に一層貢献できよう。
政府は昨年7月、集団的自衛権の行使を容認するための憲法解釈変更を閣議決定した。これについて、反対派は「解釈改憲」と批判して「行使容認には改憲が必要だ」と主張している。
集団的自衛権は国連憲章などで主権国家に認められているものだ。その意味では「行使できない」としてきた従来の解釈にこそ問題があったと言えよう。変更は当然だ。
ただ今回の法案とは別に、9条改正は避けて通れない課題である。そもそも、集団的自衛権に関する解釈に歪みが生じたのは9条の存在が大きい。
さらに行使を容認したと言っても、あくまでも「一部」にすぎない。同盟国の米国は法案の閣議決定を歓迎しているが、本当の意味で国際社会の理解を得られるか疑問が残る。これも9条の悪影響と言えよう。
憲法審査会では、自民党の船田元・憲法改正推進本部長が「緊急事態条項、環境権をはじめとする新しい人権、財政規律条項の設定などのテーマを優先的に議論してはどうか」と改憲発議に向けて論点を絞り込む意向を表明した。
自民党には与野党の理解を得やすい項目で改憲の実績をつくる狙いがあろう。しかし、一度改憲を経験すれば9条改正が容易になるとの考えは短絡的ではないか。民主党の「お試し改憲」という批判はいただけないが、自民党の姿勢にも安直な面がある。自主憲法制定を党是とする自民党の最大の課題は9条改正だったはずだ。
もっとも、自民党が提唱した緊急事態条項は重要である。これは、大規模な自然災害やテロなど突発的事態に対応するためのものだ。
東日本大震災での初動の遅れは、こうした条項が憲法に存在しなかったことが大きな要因だと言える。憲法審査会では、意見表明した6党のうち、共産党を除く5党が新設に前向きな見解を示した。
ただ、緊急事態条項で想定される国民の私的権利制限には民主党の武正公一氏から反対する意見も出た。しかし機動的な対応のために、一時的な制限はやむを得ない。これができなければ被害が増大する恐れがあるからだ。
各党は建設的な意見を
改憲発議に向け、各党は建設的な意見を表明し活発な議論を展開してほしい。
(5月16日付社説)