【社説】ウクライナ情勢 ロシアの主権侵害を許すな


バイデン米大統領=26日、ホワイトハウス(AFP時事)

 バイデン米大統領がウクライナのゼレンスキー大統領と電話会談し、緊迫するウクライナ情勢を協議した。この中でバイデン氏は、ロシアによる侵攻が2月に行われる「可能性が高い」と伝えたという。

「2月に侵攻」との予測も

 バイデン氏は侵攻に同盟・友好国と共に「断固として対応する」ことを確認。ウクライナの主権を擁護する考えも強調し、両国の結束をアピールした。

 ウクライナ侵攻について、米高官は「2月中旬までの間だろう」と予測。国防総省のカービー報道官は「ロシア西部とベラルーシで戦闘部隊の増強が続いている」と指摘した。何としても抑止しなければならない。

 ロシアは、旧ソ連の勢力圏だったウクライナの北大西洋条約機構(NATO)非加盟の確約を繰り返し求め、10万人規模の軍部隊を国境付近に展開している。これに対し、米国は要求を拒否する考えをNATOと共に書面でロシア側に回答。安全保障に関する判断は各国に選択する権利があると主張した。

 ロシアのプーチン大統領はロシアとウクライナの両国民が「一つの民族だ」と訴え、一体性を強化すべきだとしている。だが、ウクライナは独立国家だ。ロシアが侵攻をちらつかせて加盟を阻止しようとするのは、主権侵害以外の何物でもない。

 これまでもロシアはウクライナの主権をないがしろにしてきた。2014年3月にはウクライナ南部クリミア半島を併合。その後も、ウクライナ東部の政府軍と親露派武装勢力との紛争に軍事介入して親露派を支援してきた。こうした振る舞いは国際ルールに反するもので断じて容認できない。民主主義国家が共有する「法の支配」という普遍的価値を、ロシアがいかに軽視しているかが分かる。

 バイデン氏は、ロシアがウクライナに侵攻した場合、プーチン氏への制裁を検討する考えを示した。米国はロシア金融機関とのドル取引停止や、広範囲にわたる対露輸出規制で侵攻に対抗する構えだ。

 一方、米国防総省はNATOが即応部隊の出動を決めた場合に備え、米兵約8500人の欧州派遣を準備している。ただ、バイデン氏が「米軍とNATOの戦力をウクライナに配備するつもりはない」として、ウクライナへの米軍派遣を繰り返し否定していることは気掛かりだ。

 ロシアが米国を「弱腰」とみれば、ウクライナ侵攻を抑止することはできない。中国が統一に向けて武力行使も排除しないとしている台湾情勢にも大きな影響を与えよう。

 日本では侵攻が起きた場合、ロシアへの経済制裁に踏み切るよう政府に求める声が自民党内から挙がっている。クリミア併合の際、日本は査証(ビザ)発給要件緩和の協議停止などの措置を取ったが、極めて甘い対応だったと言わざるを得ない。

首相は制裁発動明言を

 日本は北方領土をロシアに不法占拠されている。「力による現状変更」を繰り返したロシアに対し、どの国よりも厳しい姿勢で臨むべきではなかったか。岸田文雄首相はウクライナ侵攻の際の経済制裁発動を明言しなければならない。