【上昇気流】社会学者デュルケムは19世紀末に『自殺論』を著した


社会学者デュルケム-Wikipediaより

 フランスの社会学者デュルケムは19世紀末に『自殺論』を著した。当時のパリは人口200万人を超える欧州最大の都市で、住民は極端なまでに入れ替わった。それにもかかわらず、自殺者の数は例年、ほぼ一定だった。

 そこから統計を分析して「自殺は文明社会の風土病」との診断を下し、その類型を探った。その一つが「利己的自殺」。

 文明社会は人々の統合を弱め、自己本位という「自己の神格化」に陥り、過度な個人主義に至る。社会との関わりや規範を拒み、ほんの僅(わず)かな落胆でも容易に絶望的な決断を生む。「人生が生きていく苦労に値しないとすれば、どんなことでもそれを放棄する口実になる」と、デュルケムは言う。

 「アノミー的自殺」もある。アノミーとは無規制状態のこと。金銭や名声など人間的欲望が肥大化すると「止みがたき渇き」を抱く。自分が制限されていないと感じるほど、それだけあらゆる制限が耐え難くなる。「欲望の神格化」によって人は破滅に追いやられる(作田啓一著『デュルケーム』講談社)。

 東大前で刺傷事件を起こした17歳少年も「成績が伸びない」という焦燥感が動機であれば、アノミー的犯行だ。昨今の「拡大自殺」と呼ばれる凶悪犯罪もこの部類に入る。

 デュルケムは「社会そのものが変わらない限り、同じであり続ける」と言っている。その変化が「新しい資本主義」というのであれば、欲望を制御し他者を思いやる精神を土台に据えるべきだ。

(サムネイル画像:Wikipediaより)