ロシア下院選 政治弾圧で作られた投票結果


 ロシア下院選挙が行われ、プーチン大統領の政権与党「統一ロシア」が定数の3分の2以上となる324議席を獲得した。

 だが、野党指導者を逮捕するなどの政治弾圧や「立候補禁止」法による反体制派の排除で作られた投票結果は民意とは言い難く、公正な選挙から程遠い野蛮なものだ。

反体制派指導者を拘束

 今回の選挙は17~19日の投票日ではなく、昨年起きた反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の毒薬による暗殺未遂、今年1月にドイツからロシアに帰国した同氏をロシア当局が拘束して以降の激しい政治弾圧で決着が付けられたに等しい。

 昨年8月、飛行機でロシア国内を移動中のナワリヌイ氏が体調に異変を来し、ドイツの病院に転院して検査をした結果、使用されたのは軍用の神経剤「ノビチョク」であるとメルケル首相が発表し、暗殺未遂の疑惑が浮上していた。

 ナワリヌイ氏は1月17日に帰国と同時に拘束されてウラジーミル州の収容所に収監された。ハンガーストライキによる抗議で体調を崩し、健康不安のため治療に訪れた主治医らの面会も許されないなど過酷な扱いを受けた。

 ナワリヌイ氏の釈放を求める抗議デモに参加した支持者も厳しい取り締まりや社会的圧力を受けた。さらに、6月に反体制派を裁判所が「過激派」認定することで各選挙に立候補する道を閉ざす狙いのある「過激派立候補禁止」法をプーチン政権が成立させたことによってナワリヌイ氏のグループは選挙活動ができなかった。

 これまで下院選、大統領選の不正告発デモで注目を集めたナワリヌイ氏は、「汚職との戦い基金」、選挙活動やデモを組織する「ナワリヌイ本部」などの運動によって支持を広げた。一方、プーチン氏と「統一ロシア」の支持率は低下して政権には打撃となった。

 プーチン氏は2024年の次期大統領選挙への出馬を可能にする憲法改正を実現しているが、経済難、年金受給年齢の引き上げなどに対する国民の不満は増している。それだけに国民が敏感に反応する汚職を告発する野党勢力の広がりを、強権に訴える徹底的な弾圧で抑え込むことによって再選戦略を切り開こうとしている。

 ナワリヌイ派の運動団体は「過激派」認定によって選挙から一掃されたが、それでも「統一ロシア」は19議席を減らすことになった。また政権に従順な「体制内野党」の中でも親政権的な極右のロシア自由民主党が18議席減らして21議席になる惨敗をしている。小さなほころびはあったと言えよう。

 代わって受け皿になったのは15議席増の57議席となったロシア共産党、新党で13議席を獲得した「新しい人々」だ。

選挙の形骸化を懸念

 しかし、民主派野党勢力を徹底弾圧してはロシアに健全野党は育たず、民主主義から乖離(かいり)していく。

 米国、英国などは公正な選挙ではないと非難した。選挙を形骸化する独裁的体制は、ベラルーシ、香港などと共に懸念される事態である。