北方領土 あくまでも4島返還を目指せ
菅義偉首相は、就任後初のプーチン露大統領との電話会談で「北方領土問題を次の世代に先送りせず、終止符を打ちたい」と決意を表明した。
ロシアは北方領土に関する歴史認識や主権をめぐって強硬姿勢を示している。菅首相は4島返還に向けた取り組みを強めるべきだ。
菅首相が18年合意を踏襲
両首脳は、歯舞、色丹両島の引き渡しを明記した1956年の日ソ共同宣言を基に平和条約締結交渉を進めるとした2018年の首脳間合意を再確認。近いうちに対面形式の会談を目指すことで一致した。
18年合意は安倍晋三前首相とプーチン氏が交わした。日本側が2島返還にかじを切ったもので、菅首相はこの踏襲を明確にした形だ。
しかし合意後、ロシアの姿勢はかえって強硬になっている。今年7月には「領土割譲禁止」を明記した改正憲法が発効している。
プーチン政権は北方領土について「第2次大戦の結果」などと主張している。電話会談が行われた日には、ロシア軍が北方領土を含む区域で軍事演習を行うなど日本側を挑発した。
北方領土は日本固有の領土である。択捉島や国後島は沖縄本島よりも広く、4島を合わせると福岡県よりも大きい。戦後75年続くロシアの不法占拠は決して受け入れられない。日本は2島ではなく、あくまでも4島返還を目指して領土交渉を進めなければならない。
プーチン政権は求心力を高めるため、ウクライナ南部クリミア半島併合などで国民の愛国心をあおってきた。このため、ロシアでは北方領土返還に反対する声が強く、これがプーチン政権の強硬姿勢の背景にある。
ロシアは北方領土の軍事拠点化を進めている。国後、択捉両島には北海道東部まで射程に入れる地対艦ミサイルが配備されているほか、北方領土内側のオホーツク海には米本土を射程に入れた戦略核ミサイル搭載のボレイ級原子力潜水艦が潜んでいるとされる。
一方、日米安全保障条約上、米側は日本の同意を前提に日本国内に米軍施設・区域を設置できる。北方領土を日本に返還した場合、米軍基地が造られることをロシアは懸念している。
だが、このことが返還に反対する理由にはならない。4島が日本に返らない限り、日露関係の根本的な改善は望めず、経済協力も進まないことをロシアは知るべきだ。
18年合意後、安倍前首相は2月7日の「北方領土の日」に開かれる全国大会で「日本固有の領土」という表現を使わず、大会アピールからも「不法占拠」の言葉が外された。ロシアに対する配慮の表れだが、領土交渉の進展にはかえってマイナスとなったのではないか。
ロシアに足元見られるな
これまで領土返還が実現していないことを考えれば、少しでも交渉を前進させたいという気持ちは理解できる。
しかし成果を焦るあまり、ロシアに足元を見られることがあってはならない。菅首相は4島返還に向け粘り強く交渉を続ける必要がある。