北の「北極星3号」開発に思う
元統幕議長 杉山 蕃
巨費を投じてもペイせず
射程短く限定的な攻撃可能域
10月初頭、北朝鮮は水中発射の中距離弾道ミサイル(IRBM)「北極星3号」の発射に成功したとし、その画像を公表した。国連決議を欺くその行動は誠に遺憾であり、一層の制裁強化を必要とするが、関連して水中発射の母体となる潜水艦事情についてコメントしたい。
今回の発射は東海岸元山沖の水中発射施設から行われ、ロフテッド軌道により、高度900キロに達したものと見られることから、前回の「北極星2号」高度550キロに比し一段と推力が向上、射距離も2000キロを超えるものと考えてよい。今回公表された映像の特徴として、発射管の蓋(ふた)と思われるものが空中で分離炎上する様が明確に捉えられており、北朝鮮の目指す発射形態が「VLS」(垂直発射)であることが推察できる。
垂直発射で船体巨大化
一般に潜水艦からの発射方法は、魚雷管を利用する水平発射方式と垂直発射方式に大別される。前者はミサイルを横積みで操作するため収納スペース的に効率が良く、比較的小型艦でも搭載可能である。しかし、発射後、水中でミサイルの向きを垂直に変更する処置が必要であり、複雑な機能を必要とする。
後者の垂直発射では発射機能は単純化されるが、最低10メートルとされるミサイルを縦に収納し運用することから船腹が大きくなり、潜水艦自体が巨大化せざるを得ない。米海軍オハイオ級、ロシア海軍ボレー級、中国海軍晋級等の最新鋭艦はいずれも1万5000トンを超える巨体で、当然、原子力推進である。北朝鮮が垂直発射を目指しているとすれば、発射母体の潜水艦は相当大きなものとなる。
この場合、潜水艦の特性として大きな推進力が必要であり、原子力推進が考えられるが、北朝鮮にはその能力は無いとするのが大勢の見方である。北朝鮮の潜水艦はロメオ級約20隻が主力だが、かなり旧式の可潜艦で、約1800トン、かなり能力は低い。むしろ注目すべきは、廃材として購入したゴルフ級船体を約10隻保有していることと、1993年ヤンキー級またはヴィクター級原潜を廃材購入したと伝えられていることである。
他方、新型潜水艦(新浦級)を建造中の情報があるが、細部は不明である。こうして見ると、中型の通常型潜水艦で、ミサイルを垂直に配置する工夫(ゴルフ級等)を行ったものが考えられる。
次に、新型潜水艦の建造に成功したとして、その後の運用について考えてみたい。潜水艦搭載の核兵器は、陸上移動型の核ミサイル、航空機搭載の核兵器と並んで「三種の神器」と言われ、水中に位置することから、先制核攻撃に対する生存率が高く、報復・反撃力が高いとされる。問題は潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の射程にある。米英のトライデント、ロシアのR30(ブラヴァー)、中国のJL2等はそれぞれ8000キロ程度の射程を持ち、各国周辺の他国艦艇に閉鎖的な立地条件を有する「静かな海」に配置し、原潜特有の長期間の任務遂行が可能な態勢にある。
射程が短い3000キロ程度のミサイルでは、攻撃可能域が限定されるため、目標近くまで進出する必要がある。この場合、張り巡らされた潜水艦探知網を潜り抜ける必要があるが、センサーの発達した現今、たやすいことではない。根拠基地出口、水峡、海底地形上の要地にはそれなりの探知システムが待ち受けていることを覚悟しなければならない。
北朝鮮の場合、地形的に排他的な海域に乏しい上、大洋への出口は限られており、かつて冷戦時代、ソ連極東艦隊が苦戦した以上の運用上の制約を受けることとなる。自国沿岸海域で潜航していたとしても、居場所は特定され、攻撃可能地域は限定されることになる。
このような状況では巨費を投じて開発を続けても、ペイする事態とはならないのではないかと思料する。メリットと言えば、米朝交渉、非核化交渉で「高い値段」を付けられるとか、核保有を企(たくら)んでいる外国に技術流失を行い、大きな見返りを得るといったことであろうが、核拡散防止条約(NPT)体制の厳格化を唯一の核軍縮手段としている国際社会の風潮に抗していくこととなり、ますますその立場を悪くしていくこととなる。
迎撃装備の整備不可欠
このように、SLBMの開発は北朝鮮にとって決して有利に作用するものではないし、我が国をはじめとする周辺国は、国連決議に基づく経済封鎖の厳格化と、弾道弾迎撃装備の整備により対応に努めねばならないと考えるところである。
(すぎやま・しげる)






