韓国の「ナショナリズムの酩酊」
東洋学園大学教授 櫻田 淳
至上の大義「南北融和」
西方世界から脱落し孤立も
第4次安倍晋三第2次改造内閣の発足に際して、茂木敏充(新任外務大臣)は、対韓関係について、「国際法違反の状態を一刻も早く是正すること、引き続き強く求めていくことに変わりはない」と言明した。
外務大臣在任中、駐日韓国大使への応対が「礼儀を欠く」と韓国国内から批判された河野太郎(新任防衛大臣)が閣内に残った事実に併せ、茂木の外務大臣就任は、安倍内閣下の対韓姿勢に何ら変更がないことを示す。
日米を障害物と見なす
文在寅(韓国大統領)麾下(きか)の韓国政府の対外認識における「本音」も、露骨に表れつつある。たとえば、『朝鮮日報』記事(日本語電子版、9月10日配信)に拠(よ)れば、文正仁(統一・外交・安全保障担当韓国大統領特別補佐官)は、現下の朝鮮半島情勢について「韓米同盟を生かそうとして南北関係が駄目になっている状況」と評した上で、「南北関係において最大の障害物は国連軍司令部」という認識を示している。
また、韓国紙『中央日報』記事(日本語電子版、9月15日配信)に拠れば、文正仁は、現下の日韓関係についても、「韓日ではかつては相手の立場になって考える気持ちがあったが、今回の日本は高圧的で一方的だ」と批判した。
文正仁の一連の発言に濃厚に反映されているのは、「南北融和」こそが、韓国の対外政策における至上の大義であり、日本や米国のような「外部勢力」の存在が、その大義の実現を阻んでいるという意識である。
それは、周辺外国勢力の確執の狭間で自主の立場を保持せんとする「朝鮮半島ナショナリズム」に根差した意識である。しかも、文正仁の発言は、一介の政治学者ではなく大統領補佐官としての立場を踏まえたものである以上、その波紋は大きなものがあろう。
注意深く観察されるべきは、「朝鮮半島ナショナリズム」を反映させた「文在寅の韓国」の対外政策展開が、どのような影響を特に東アジア国際政治情勢に及ぼすかということである。これに関しては、次に挙げる二つのことを指摘できよう。
第一に、文在寅が特に日米両国に抱く感情がどのようなものであれ、当代国際政治秩序の基盤を成すのは、日米両国を含む「西方世界」の価値意識である。現下の日韓確執の本質もまた、「国際法の遵守(じゅんしゅ)」を含めて、「西方世界」の流儀に沿う振る舞いに徹してきた日本とは対照的に、「文在寅の韓国」が「西方世界」国家に相応(ふさわ)しい誠意を示していないことにある。
日米両国と離反し、「西方世界」から脱落した韓国が行き着く先は、文在寅が望むような「自立」ではなく「孤立」である可能性が高い。文在寅周辺に盤踞(ばんきょ)する「朝鮮半島ナショナリズム」鼓吹層は、このことに気付いていないようである。
第二に、文在寅が展開する「南北融和」の論理には、それを他の国々は当然のように歓迎するものであるという予断が見え隠れする。去る8月、文在寅が行った「光復節演説」には、次のような一節がある。
「2045年の光復100周年には平和と統一で一つになった国として世界にしっかり位置付けられるよう、その土台を強固に築いていくと約束します」
前途多難な「南北統一」
しかし、統一前の東西両ドイツに比すべくもない南北朝鮮の経済格差、さらには国連安保理決議に拠る制裁を経て膠着(こうちゃく)した「悪漢国家」という北朝鮮の立場を踏まえるとき、文在寅が標榜(ひょうぼう)する「2045年の南北統一」は、円滑に進まないどころか、その過程で韓国内外に顕著なハレーションを呼ぶことになるであろう。
このようにして、「文在寅の韓国」から浮かび上がるのは、文在寅を含む韓国政治指導層が自らの「朝鮮半島ナショナリズム」に酩酊(めいてい)している風景である。この「ナショナリズムの酩酊」から醒めた後、韓国の人々の眼前に広がる風景は、どのようなものであろうか。
(敬称略)
(さくらだ・じゅん)











