ペイせぬ北朝鮮の核兵器開発

杉山 蕃元統幕議長 杉山 蕃

核の効果、相対的に低下
弾道弾対処能力高める周辺国

 北朝鮮の核兵器破棄問題は、予想されたように顕著な進展はなく、時間のみ経過していく中、北朝鮮の出方をめぐり、米中の主導権争いの様相が浮上するなど、複雑な国際問題と化していく状況にある。今回は本件の長期化難航を踏まえた周辺国の弾道弾対処体制の状況について紹介し、所信を披露したい。

 北朝鮮弾道弾に対しては、在韓米軍が配備を完了し運用体制にある「THAAD」システム(大気圏突入前後で迎撃)、日米韓イージス艦搭載スタンダードミサイル「SM3」システム、局地防空用パトリオットPAC3、そして我が国が新たに配備を計画しているSM3の陸上版「イージス・アショア」がよく紹介されるところである。

 一般にミサイル迎撃は、発射直後の低速上昇のブーストフェーズでの要撃、大気圏外を飛翔(ひしょう)するミッドコースにおける迎撃、目標に対し降下し、大気圏に突入以降のターミナルフェーズに区分されるが、これはさらに突入前後の高高度要撃、突入後低高度において迎撃する終末段階迎撃に区分されている。上昇段階の迎撃は、目標発見・追尾といった時間的な問題から事実上困難で、ミッドコース以降の対処となる。

 我が国の態勢は、ミッドコースはイージス艦が担当し、SM2、3による迎撃である。SM2は能力的に困難な面を有するが、ここ数年、迎撃能力に優れたSM3に換装が進んでおり、有力な戦力である。

 大気圏突入前後を担当するのがTHAADおよびイージス・アショアである。これらは陸上に配備されるため艦艇のように適時適所に移動進出することはできないが、射高、射程の大きさから守備範囲が広く、我が国の場合、2カ所の配備で全土をカバーできるのが強みである。我が国はイージス・アショアを選択し導入に着手したところである。

 パトリオットPAC3は、低高度において最終迎撃を担当する。安定した運用実績を有するが、守備範囲に制限があり、主要地区の防空に適していると言える。このように我が国の弾道弾対処能力は、イージス・アショア、イージス艦増強等のシステムアップにより、かなり堅確な態勢を構築していく流れにある。

 他方、中国のミサイル防衛の体制については報道も限られているが、体制的に遅れていることは否めない。しかし本年2月、懸案の大気圏外迎撃ミサイルの開発試験に成功したことが報ぜられている。これは中国が公表したほか、米関係紙もこれを認め、当該ミサイルをHQ19と命名、「チャイニーズTHAAD」と紹介している。

 最近の中国の対空ミサイルの開発は、ロシアからのS300を導入、部隊配備を行うとともに、これを参考にHQ9(紅旗9)、フランスより購入したクロタールミサイルを基に開発したHQ7が主力で、後者は主力艦艇に搭載しているほか一部外国への輸出を行っている。しかし、これらはいずれも艦隊・局地防空を目的とし、射高・射程で米国イージスシステムには数段見劣りする状態にある。引き続きロシアからS400(S300発展型)の導入契約を行い、本年北京地区への配備が行われる旨公表されている。

 今後はHQ19の成功により、従来の大気圏内迎撃網に加えて、大気圏外要撃網を北京・上海・三峡の主要防護地区を中核に構成するとともに、055型最新ミサイル巡洋艦等への搭載を進めると考えてよい。この動きは単に国土防衛の装備にとどまらず、中国が公表している空母艦隊を外洋に出す上で必須の装備と言ってよく、今後の開発状況は注目していかねばならない。

 韓国はかねて、北朝鮮の短距離弾道弾(SRBM)に対処するため、ロシアとの間でS300をベースとした迎撃システムを開発する動きにあったが、文在寅政権発足以降、顕著な進展は伝えられておらず、在韓米軍THAADと虎の子の「世宗大王」級イージス艦3隻を適所に配置して対応する態勢が継続するものと見られる。

 こうして見ると、周辺国の弾道弾対処能力の向上は、北朝鮮が国際社会の非難を浴びつつ、全力を挙げて開発した核兵器の効果を、相対的に低下させることとなり、その壁を乗り越えるためには、さらなる資源の投入が必要となる。このことは、「将来の核放棄」という目標を「高い売り物」として、国家経済の立て直しに巧妙に立ち回ろうとしている北朝鮮にとって大きなマイナスであることは間違いない。

 北朝鮮核開発問題は、独り異端国としての問題ではなく、人類の悲願である「核管理、核軍縮、核廃絶」への当面の目標である核拡散防止条約(NPT)体制の厳格な態勢確保の見地が肝要である。このためには、安保理決議を基本に、諸制裁を厳しく執り行うとともに、周辺国の対応策整備により、核開発の効果を低下させ、国際的に「異端の行為」が決してペイしないことを実証していくことが何より重要なのである。我が国国会議員の中には、北朝鮮の政治ショーに振り回され、イージス・アショアの予算を凍結すべきだといった意見を弄(ろう)する者もあるようであるが、核開発放棄問題の進展という見地からは、浅はかな発言と言わざるを得ない。

(すぎやま・しげる)