弾劾は民主党の夢物語
米コラムニスト マーク・ティーセン
トランプ氏、選挙法抵触か
ロシアとの共謀は無関係
マイケル・コーエン氏が、トランプ大統領に代わって口止め料を支払ったことで司法取引に応じたことから、民主党が議会で過半数を取れば、ロシアと共謀したとされる件とは全く無関係の問題で大統領を弾劾しようとする可能性が出てきた。だが、そんなことができるはずはない。民主党が上下両院を奪還しても、ポルノ女優に口止め料を支払ったからといって上院の3分の2が大統領の弾劾に賛成する可能性はゼロだからだ。
民主党が不倫に関連する違法行為をめぐって大統領を排除しようとするなど、偽善以外の何物でもない。モニカ・ルインスキーのスキャンダルの際、民主党は大統領の個人的な性的行為は重要ではなく、宣誓しておきながら「合意の上での関係」を隠蔽(いんぺい)するためにうその証言をしても、弾劾の理由にはならないと言っていた。民主党のシューマー下院議員(当時)は、クリントン大統領が、ホワイトハウスのインターンとの性的関係に関してうそをついたのは違法だった可能性があると言っておきながら、このスキャンダルは「品がないが、弾劾要因とはならない」と主張、その直後にクリントン氏と共に資金集め集会に向かった。当時、民主党のペロシ下院議員は、「(スター独立検察官の捜査によって)公的生活でのクリントン大統領の正当性が守られた。責任を問われたのは私的な部分だけだからだ」、「(建国の父なら)こう言うだろう。大統領の私生活の捜査のせいで、国民の生活、自由、侵すべからざる名誉を危険にさらしてはならない」と言明した。
しかし、共和党の大統領が不倫を隠蔽したとして非難されると、手のひらを返したように、隠していたスター検察官を引っ張り出してくる。
◇捜査は「魔女狩り」
民主党は今、モラー特別検察官を非難し、捜査を「魔女狩り」と呼ぶトランプ氏に怒り、大きなショックを受けている。しかし、クリントン政権当時、副大統領だったジョー・バイデン氏は、スター氏の捜査を「魔女狩り」と呼んでいた。民主党のリーヒー上院議員は、スター氏は「常軌を逸している」と主張、「合衆国大統領を辞職させたいという思いに取りつかれている」と非難した。当時、大統領首席補佐官だったラーム・エマニュエル氏は、スター氏を「大統領を党派的、政治的理由で追撃」していると非難、現在、コーエン氏の弁護人を務め、当時、大統領特別顧問だったラニー・デービス氏は、スター氏は「必死だが、ホワイトウォーター事件を立件できるはずはなく」、「自身の取った行動のせいで辞職させられる」べきだと語った。
実際には、ホワイトウォーター事件の捜査が、ルインスキー氏との関係に関してクリントン氏がうそをついたことに対する偽証罪への捜査へと変わっていくことを懸念したのは民主党だけではなかった。共和党員らも、独立検察官の権力が強すぎると考えていた。そのため1999年に、共和党が多数派だった議会は、独立検察官法を廃止した。こうして、司法省に対して報告義務のある捜査官は、本来の目的に専念すべきだということが明確にされた。
本来あるべきところにようやく戻ったようだ。連邦検察官らは、ロシアとの共謀を捜査することになっている。ところが、トランプ・オーガニゼーションの資金や、トランプ氏のストーミー・ダニエルズさんへの口止め料が選挙資金法に抵触するかどうかが捜査対象になっている。どちらも、きちんと捜査すべきものだが、少なくとも、民主党が1990年代に作った前例に倣えば、弾劾する理由にはならない。
◇計り知れない打撃
民主党が、ロシアとの共謀という犯罪以外の罪でトランプ氏を弾劾しようとすれば、後悔することになる。米国民は、トランプ氏の過去の色恋沙汰について知っていながら、支持し、正当な手続きを経て大統領に選出した。トランプ氏が選出されたのは、90年代の文化戦争に民主党が勝利したことが直接的な要因だ。共和党は、民主党が確立したルールに従っているだけだ。ペロシ氏は、大統領の「私的な部分」は重要ではないと言った。多くの米国民が、クリントン氏と支援者らが残したその教訓を基にトランプ氏に投票した。この問題でトランプ氏を弾劾しようとすることは、その投票を無にするものだ。弾劾に伴う打撃は計り知れない。2016年の敗北を後悔しているなら、20年まで待つべきだ。
これは、トランプ氏が法的な困難から脱するということではない。退任後、自身がした違法なことすべてに責任を問われることになる可能性はある。クリントン氏は退任後、5年間、アーカンソー州の弁護士免許を停止させられ、偽証による訴追を回避するための独立検察官との合意の一環として2万5000㌦の罰金を支払った。その結果、クリントン氏は、最高裁での法律業務資格を剥奪された。
モラー氏が最終的に、トランプ氏はロシアとの共謀という犯罪に関与していたという証拠をつかんだなら、当然、弾劾すべきだ。しかし、証拠はなく、ストーミー・ダニエルズさんの件でトランプ氏を引きずり降ろそうという考えは、リベラル派の夢物語だ。この問題でトランプ氏を排除できず、民主党が動揺したとしたら、気の毒なことだが、その前例を作ったのはほかでもない民主党だ。
(8月31日)






