北朝鮮の原潜開発計画に思う
元統幕議長 杉山 蕃
周辺海域の監視網強化を
検討すべき対艦艇原潜の保有
北朝鮮の金正恩総書記は1月8日行われた第8回党大会で、戦略核兵器の一層の充実を謳(うた)い上げ、5年後には、潜水艦発射弾道弾(SLBM)搭載の原子力潜水艦を開発・配備する旨公言した。そして14日夜の軍事パレードでは、新型北極星5号をトレーラーで展示した。北朝鮮の弾道弾搭載潜水艦については7、8年前から、その兆候が伝えられてきたところであるが、今回の発表に関連し所見を披露したい。
現状は目立つ戦力なし
まず北朝鮮の潜水艦保有状況であるが、目立つ戦力と言えるものは無い。主力と言えるのは、旧ソ連から中国へ技術移転されたロメオ型(100隻建造、既に退役)を1973年2隻導入、これを基に24隻建造し、今に至るも使用している状況である。本型は、大戦後期に使用されたものと大差なく、潜水艦と言うより可潜艦と言うべきで、潜水能力も半日程度で浮上充電が必要な大時代ものである。さらに小型のサンオ型等を有するが、ミサイル搭載には程遠い。
同じく中国から解体処分するとしてゴルフ型潜水艦を10隻購入した実績がある。本型艦(3000㌧)は、通常推進ながら船橋後部に弾道弾を垂直配置(2ないし3発)できるもので、戦略潜水艦のはしりと言えるものである。北朝鮮のミサイル搭載潜水艦はこのゴルフ型を基本にするのではないかと思われていた存在である。ところが今回、「5年後に原子力潜水艦」を公表したので状況は一変した。
核弾道弾搭載の戦略原潜(SSBM)は、米露英仏中の5カ国が保有しているが、SLBMを垂直に搭載する関係から、いずれも1万㌧を超える大型潜水艦である。インドが国産開発している「アリハント」型は7000㌧といわれるが、搭載ミサイルは、射程数百㌧の小型ミサイルである。
最新の戦略原潜は、米オハイオ型(2万㌧、24隻)、露タイフーン型(4万㌧、6隻)、ボレー型(2・4万㌧、8隻)等、さらなる大型化が進んでいる。北朝鮮は大型潜水艦防空壕(ごう)(咸鏡南道新浦)の建設、水中発射装置からの発射実験等により、北極星弾道弾の垂直水中発射の技術は保有しているものと考えられるが、原潜技術については情報がないと言ってよい。5年という短期間を公言したのであるからそれなりの根拠は有するのであろう。
中国が行ってきたロシアからの技術導入(露ヴィクター型から商級、晋級へ発展)と同様の道を辿(たど)るのか、中国からの技術拡散を目指すのか不明であるが、大変な投資を必要とし、最大の注目が必要である。いずれにせよ「原潜開発」の公言が与える影響は大きい。
我が国の対応を考えてみたい。基本的な考え方は、国連決議1695(2006年7月15日)以降、10本を超える国連決議で明らかなごとく、北朝鮮核開発・弾道ミサイル開発停止の要求である。これらに従わない北朝鮮に対し事実上の経済封鎖等、処置を強化している。今回の戦略原潜開発宣言に対して国際的にいかなる処置が強化されるのか不明であるが、我が国が取るべき軍事的な方向について二つの提言をしたい。
一つは我が国が日米同盟下で構成している周辺海域の艦艇監視網の一層の充実である。当該監視網は衛星をはじめとし、電子、音響等あらゆるセンサーで、監視するもので、冷戦時代からその功績は大きい。当然、機密度も高く、紙上にふさわしくないところが多い。これらを北朝鮮監視にさらに充実させることは当然の処置である。
原潜には原潜で対応を
第2点は原子力潜水艦保有への提言である。原潜は、大要三つのカテゴリーに分けられる。戦略ミサイル搭載のSSBM、巡航ミサイル搭載のSSGN、艦艇対応のSSNである。いずれも水中機動能力に優れ、25ノット以上の速度で隠密な行動ができる。補給・充電等の必要はなく、通常型の潜水艦、水上艦艇に比べ大きな利点を持っている。原潜に対応するには原潜が最適と言われる所以(ゆえん)である。
我が海上自衛隊も何度かSSN保有への努力を行ったようである(ウィキペディア)。その都度、原子力基本法、国民的アレルギー、原子力推進船舶の一般化といった観点から実現しない状況にある。しかし、中国のみならず、北朝鮮が開発を明言した現今、真剣に保有を検討すべき機に来ているし、北朝鮮のさらなる核戦力への投資がペイしないことを実証していく姿勢が必要とされる。
(すぎやま・しげる)