接近するウクライナとトルコ

中澤 孝之日本対外文化協会理事 中澤 孝之

戦略的同盟関係を構築へ
軍事関係深化に苛立つロシア

 ロシアとのウクライナの関係がまた、急激に悪化した。ロシアが2014年春に併合したクリミア半島の周辺海域で11月25日、ロシア国境警備艇がウクライナ軍艦船3隻に発砲、拿捕(だほ)し、乗組員24人を拘束したことがきっかけだった。ロシアは、ウクライナ艦船団が事前通告なしに領海を侵犯して、挑発したと主張した。ウクライナ側は同地域での航行の自由を盾に、艦船の拿捕と乗組員の拘束に抗議し、彼らの早期釈放を要求した。さらに師走の中旬になって、約3世紀の間、ロシア正教会の管轄下にあったウクライナ正教会の独立が決まり、両国関係は宗教闘争の様相も呈している。

 ウクライナはアゾフ海沿岸に海軍基地建設を目論(もくろ)んでおり、完成の暁にはそこはいずれ北大西洋条約機構(NATO)軍の基地としても使用される可能性がある。NATOを東方に拡大させないとの西欧と旧ソ連の暗黙の了解にもかかわらず、1990年代以降、NATOの東方進出が続いた。今やウクライナの反露ポロシェンコ政権の手引きでロシアの国境近く、アゾフ海にまでNATO拡大が及びつつあるとして、安全保障上の危機感を覚えたロシアの疑心暗鬼が、今回のような海上での突発事件を引き起こした可能性が高い。

 こうした中で、NATO加盟国トルコおよび、ロシアと絶縁状態のウクライナという黒海地域の両国関係が注目される。米国のジェームズタウン財団発行の「ユーラシア・デーリー・モニター(YDM)」最新号の論評を参考に、両国の戦略的軍事パートナーシップの現状を紹介する。

 YDMによれば、戦略的同盟関係がアンカラとキエフの間で静かに、かつ徐々に進行しているというのだ。2015年末の、シリア国境近くのトルコ空域に迷い込んだロシアの爆撃機がトルコによって撃墜されたことをきっかけにロシアとトルコの関係が急激に悪化したとき、キエフとアンカラは直ちに、軍と経済の両分野で広範な協力イニシアティブを開始した。この協力関係は、トルコとロシアの関係が16年夏ごろから改善に向かった後も、そのまま残った。

 ロシアにとって最も望ましくない地政学的シナリオの一つは、トルコとウクライナが戦略的な同盟を結ぶことだ。そうした出来事は、欧州東部とより広範な黒海地域に関するクレムリンの計画の妨げになるだけではなく、中東に関するロシアの野心を阻害する。そして、西側ではあまり気づかれていないが、まさにそうしたプロセスが進行中だという。

 ウクライナのポロシェンコ大統領は、11月3、4日に、トルコのエルドアン大統領との会談のため、同国を訪問した。両首脳にとって、これは5回目の公式会談だった。過去の両者の会談と同様、2人は主に軍事、経済問題、そしてウクライナの対ロシア関係へのトルコの仲介、特にロシアが併合したクリミア半島におけるクリミア・タタール人の状況―といったテーマについて話し合った。この訪問の機会に、両大統領は11年に始まった高級戦略評議会の第7回会合も開いた。

 クレムリンにとって、トルコとウクライナの関係進展の最も苛立(いらだ)つ側面は、両国の軍事的な関係が深まっているとされることだ。両国は既に、黒海で行われたNATOの軍事演習にそろって参加している。同時にまた、トルコは、モントルー条約(1936年)によって、戦時における閉鎖の権利がこの国に認められている幾つかの海峡を管理している。海峡が閉鎖されれば、ロシアの東地中海へのアクセスは制限されてしまう。

 今までのところ、ウクライナとトルコの軍事分野での協力は、以下のような現実的なイニシアティブとなって実現しているとYDMは指摘する。

 ①両国はNATOの枠組みに共同で参加し、高官級の定期協議を開催②ウクライナの国有国防企業ウクロボロンプロムは2016年4月、受動レーダー製造施設の操業に関してトルコのハベルサン社との協力を開始③ウクライナの国営企業ウクリンマッシュは昨年4月、ハベルサン社と共同で、ウクライナでの集中的なサイバーセキュリティー・センターの創設準備を開始④昨年5月、ウクライナの国有航空機製造企業アントノフはトルコの航空宇宙会社(TAI)との間で、無人戦闘機(UAV)の改良型を開発・製造するための協力覚書を取り交わす⑤ウクライナは16年11月、トルコ企業アセルサンと軍事無線システム調達の契約を締結⑥両国は今年4月、NATOの基準に従って設計された共同製造輸送機An188を発表⑦両国首相は昨年、トルコ製戦車用にウクライナ製6TD3エンジンを製造する可能性について了解覚書を交わす⑧ウクライナの国有企業ルーチは今年5月、アセルサン社と共に対戦車誘導ミサイル「スキフ」の発射実験を実施⑨ウクライナはトルコのM17ヘリコプターの改良(近代化)計画の入札で落札⑩ウクライナはドンバス地方に展開する可能性のある国連平和維持活動へのトルコの参加を歓迎

 こうした協力イニシアティブのリストからは、多くの戦略的な結論を引き出すことができる。とりわけ、軍事技術協力はウクライナ軍の変革を促進し、それをNATO基準に近づけることに役立つという。

(なかざわ・たかゆき)