独情報機関の対墺スパイ活動
オーストリアが不快感
国際機関や中小企業も標的に
オーストリア国家・政府首脳は、推定されているドイツ情報機関(BND)によるオーストリア諸機関に対するスパイ行為に対し不快感を表明し、その中止と報告を要求した。いわく、友好諸国に対するスパイ行為は受け入れられない、と。
オーストリア情報誌プロフィールとウィーンの日刊紙スタンダードによれば、ドイツのBNDが1990~2006年の間にオーストリアにおける2000以上の中央機関をスパイの標的とし、それらの施設の電話、ファクス、携帯およびEメールを集積・分析してきた。なお、これまでドイツの週刊誌シュピーゲルもBNDがオーストリアを含むいわゆる友好諸国でスパイ活動をしている事実を報道してきた。なかんずく標的には欧州安全協力機構(OSZE)や国際原子力機関(IAEA)、石油輸出国機構(OPEC)などの国際機構ばかりか、例えばドローンやヒートポンプ等を製造する有力な中小企業も含まれている。
従って、BNDの活動範囲は、本来の国家の安全の範囲を超え、ドイツに経済的利益をももたらすことを目的とするいわゆる経済スパイ活動までにも広げられているのではないかと疑われ始めた。
メディアの報道によってこのテーマは、オーストリア政界に政治的衝撃をもたらした。アレキサンダー・ファンデアベレン連邦大統領とセバスチャン・クルツ連邦首相は、6月16日、王宮で共同記者会見を開催した。
ファンデアベレン連邦大統領は「友好的関係にある諸国でのスパイ行為は、常態ではなく、望ましくないばかりか、受け入れられない。これからは相互信頼が回復されなければならない。私は楽観主義者なので、これが可能と考える」と表明。
クルツ連邦首相は「オーストリアにおけるBNDの活動範囲は、膨大であった。最初の疑念の発生は14年であった。従ってドイツは、既に16年に友好国内でのスパイ活動を中止する法律を制定した。わが国は、今や誰が監視され、いつ監視が終わったかを知らなければならない。データが収集・分析された場合、これが消去されなければならない。この事項は、希望ではなく、要求である」と言明した。
ドイツには立法府が執行府を監視する、なかんずくドイツ連邦議会の機関である議会統制機関(PKG)がある。この機関は連邦議会議員によって構成され、その数はあらかじめ連邦議会によって確定される。現在の機関は、連邦議会に議席を有する全7政党から送られた9人の委員によって構成されている。委員会には守秘義務が課され、執行府に対する議会統制の典型的用例である。
BNDは、1950年代の設立時には、設立者の名前にちなんで、「ゲーレン機関」(OG)と呼ばれており、その活動領域は当初ソ連・東欧に限定された、OGは56年、正式にドイツ連邦政府の指揮下に置かれ、BNDと呼ばれるようになった。
冷戦の終結により東西ドイツが統合され、統一ドイツの首都がボンからベルリンに移されるとともに、BNDの本部機能もベルリンから行使されるに至った。同様に90年、基盤的法制として「連邦情報局法」が制定された。その活動範囲は、ソ連・東欧に限定されず、欧州連合(EU)メンバー諸国を含む全世界に広げられた。友好国オーストリアとの衝突はその典型的帰結である。
BNDは現在6500人の人員を擁し、その半数は軍人である。
BNDは、連邦情報局法第1条によれば、ドイツの唯一の対外諜報(ちょうほう)機関として、ドイツ連邦共和国にとって対外・安全保障政策的に意義のある外国に関する知識の獲得にとって不可欠な諸情報を収集し、かつ評価する任務を有する。
かつてアメリカ国防総省の諜報機関であるアメリカ国家安全保障局(NSA)によるメルケル・ドイツ連邦首相の携帯電話の傍受を含む大掛かりな対独スパイ活動が暴露された時、メルケル首相は「友好国によるスパイ行為は受け入れられない」と述べた。それと同様の行為がオーストリアに対しBNDによって行われている。結局のところ、友好国であるなしに関わりなく、「君が傍受し、僕も傍受し、そして皆が傍受する」ことになるならば、極めて非効率(無駄)な行為であるかに思われる。しかし、スパイ行為は傍受に限定されない。
最近ドイツ連邦議会の秘密会の際に、BNDの高官は、現在北朝鮮の大陸間弾道ミサイルがドイツを含む欧州に到達する可能性が極めて高いと報告している。この報告は、政治的帰結を伴う極めて重要な報告と見なされる。
なお、周知のごとく国際法は、諸国のスパイ活動を禁じていない。同様に国際法は、諸国が自国に対するスパイ活動を禁ずる立法を行うことを禁じていない。現実には諸国はほぼ例外なくスパイ防止法を制定し、これに違反する者を厳しく罰している。同様にスパイの交換も通常行われている。
(こばやし・ひろあき)






