モディ政権3年の日印、インド洋進出著しい中国に対抗
大阪国際大学名誉教授 岡本幸治氏に聞く
グジャラート州の首相からインド首相になったナレンドラ・モディ氏の政権が3年を経過し、強引な手法で一時混乱もあったが、経済は順調に成長している。他方、政治的にはインド洋で存在感を強める中国への対応が急を要し、アジアを舞台に「龍と象の争い」を展開している。こうした事態に日本はどう対応すべきか、インド情勢に詳しい岡本幸治氏に伺った。
(聞き手=フリージャーナリスト・多田則明)
順調に発展を続ける経済
人口構成が最大要因、半数が25歳以下
インド経済が好調だ。

おかもと・こうじ 1970年代に1年間、国立ネルー大学(JNU)で日本について講義した。経済人や大学間の日印交流にも貢献し、NPO日印友好協会理事長。著書は『インド世界を読む』『インド亜大陸の変動』など。
2015年に日本が受注した高速鉄道計画は、インド最大の都市ムンバイと工業都市アーメダバードを結ぶ約500キロのルートで、ナレンドラ・モディ首相は、かつてアーメダバードのあるグジャラート州の首相だった。彼は3期14年で達成した同州の経済成長を背景に、当時野党のインド人民党から国の首相に立候補して当選した。
私も同州を視察したが、道路などのインフラが整備されており、企業誘致も進んでいた。スズキは第1、第2工場はニューデリー近くにあるが、第3工場はアーメダバードに建設され、今年2月から稼働している。同工場はムンドラ港に近く、欧州、アフリカや日本を含む海外への輸出に有利だ。
モディ首相の率いるインドは順調に経済発展を続けている。2015年から2年連続で7%台の成長で、中国を大幅に上回った。インドは長らく経済成長で後塵(こうじん)を拝してきた中国より優位に立ち、さらに成長を続けるものと予測されている。
その最大の要因は人口構成で、約13億の人口の半数は25歳以下で労働力不足の心配はない。モディ氏は首相就任演説で「メイク・イン・インディア」を訴えた。外国にも製造業のインド進出を要請し、それがこの3年間、功を奏している。増え続ける若者の雇用問題を考えると、第2次産業の振興で吸収しないと失業者が増え社会不安が高まる。モディ首相は2025年までに第2次産業で1億人の雇用を目指している。
経済の自由化でインドにも中国の製品があふれている。貿易では圧倒的にインドの入超で、中国への輸出は限られた資源しかない。インドの市場で綿製品などを見ると中国製が多い。綿の豊かなインドでどうして国産品を売らないのかと聞くと、中国製品は安いから多く売れる、という答えだった。
モディ首相が昨年、2種類の高額紙幣を無効にする「通貨改革」を実施した理由は?
横行しているアングラマネーを締め付けるためだ。インドでは現金取引が圧倒的に多く、正直に納税している商人は3%ぐらいしかいないほどだ。そんな社会で、市中に出回っている現金の86%が使えなくなる荒療治をしたので混乱した。
毎年インドに行く私も高額紙幣を持っていたが、期限内にインドの銀行に行列して換金するような暇はなく、損をした。それでも昨年度7%台の成長を保ったのは、インド経済の底力だろう。長期的に見ればインドにとってプラスで、モディでなければできなかったと評価され人気は回復している。
北京で5月に開かれた「シルクロード経済圏構想(一帯一路)」の国際会議にモディ首相は参加しなかった。インドと中国は「龍と象の争い」と呼ばれる主導権争いをしている。
モディ首相が就任直後に訪問したのは中国との間にあるブータンとネパールだった。ブータンは、公共支出の半分以上がインドによって負担されている保護国のような国で、中国とは国交を結んでいない。ところが、8年前に「対外関係ではインドの助言を受ける」という協定の文言が削除されたこともあって、最近は中国が発電所の建設を持ち掛けたり、国境線の画定交渉を働き掛けたりしている。
ネパールは王政を倒し共和制に移行したが、議会政治がうまく機能していない。ネパール共産党毛沢東主義派(マオイスト)、ネパール会議派、統一共産党の3政党がほぼ均衡しており、自己主張が強くまとまらない。その点、ブータンは国王への尊敬の念が強く、政党政治がうまく機能している。
モディ首相が最初に両国を訪問したのは、近年、中国の影響が強まっているからだ。ネパールとの間には平和友好条約があり、「防衛・外交について協働する」という規定もある。ネパールには主権に関わることだと、かねてからの不満があった。
2015年に新憲法が公布されたが、州の区分けでネパール南部に多いインド系住民が分断され、選挙で不利になることから住民が騒ぎ出し、インド経由の石油などの物資が入らなくなって市民生活を直撃した。それを見た中国が、ネパール政府に石油輸出を申し出たのである。
インド洋でも近年中国の進出は盛んだ。中国が提唱している「真珠の首飾り」という海のシルクロード構想で重要な位置にあるスリランカには、近年資金と労力を提供し、港湾設備の補強・新設を行い、中国の軍艦や潜水艦が寄港できるようになっている。モルディブも同様で、インドは北だけでなく南にも注意を払わなければならない。
東のミャンマー、西のパキスタンには中国の支援による港湾施設が建設されており、そこから中国につながるパイプラインや道路など物流インフラが整備されている。これは中米紛争が起きマラッカ海峡が米海軍によって封鎖されても、湾岸諸国からの石油や重要物資を両国の港から陸路、国内に輸送するためだ。
インドは海軍力の充実を図るため航空母艦や原子力潜水艦を国産化し、外国の防衛産業にも進出を呼び掛けている。
日印関係は好調だ。
1983年にインドに進出したスズキは乗用車のシェア1位を続けている。スズキの自動車は燃費の良さとデザインで、中産階層のステータスシンボルになっている。
自動車などインドで製造して中東・アフリカに売れば運賃コストが大幅に節約できる。日本にとってインドは、貿易拠点にもなれる国だ。





