インド憲法制定71周年
拓殖大学国際日本文化研究所教授 ペマ・ギャルポ氏に聞く
人々の幸福のための憲法
改正は7回、修正は100回以上
国民に法の下の平等と自由を保障したインド憲法は、1950年1月26日に施行された。完全独立の象徴となったインド憲法が施行から71周年を迎える中、日印関係強化の意義や課題を拓殖大学国際日本文化研究所教授のペマ・ギャルポ氏に聞いた。(聞き手=川瀬裕也)
日印関係強化に草の根交流を
インドは憲法施行から71周年を迎える。
インドは日本のように憲法を一度も改正しないのではなく、7回憲法改正をして100回以上修正している。日本自身も憲法改正の問題などについても向き合わなければならない。憲法は今生きている人間の幸せのためにある。
インドの憲法の中で一番重要なのは、信仰の自由があるということだ。インドは法の支配が確立している。インドの最高裁の権限は受け身ではなく能動的で、憲法に違反するかどうかは最高裁が判断する。たとえ政府が何かしても、それを憲法に照らし合わせて正しいかどうかを判断する。そういう文化や社会制度がある。
それはイギリスから受け継いだものか。
イギリスから受け継いだものもあるが、もともとインドには多くの宗教があり、国家として特定の宗教を国教に定めていない。それがインドの最大の特徴だ。「多様性の中の統一」だ。逆に中国は今、チベットやウイグルで「愛国教育」と称して彼らの宗教を弾圧しアイデンティティーをなくそうと動いている。
日印関係は急速に深まりつつある印象があるが。
インドは日本と仲が悪かった時期がほとんどない。常に良好な関係だった。特に2000年の森首相のインド訪問から、徐々にその関係が強化されてきた。その理由の一つは、この21世紀に入り、IT関係者など多くのインド人が日本に来て現在、4万人超が長期滞在している。そういう点からも近年の日印関係の深化が見て取れる。
経済面でもそうだが、17年ごろから安全保障面での協力関係強化も顕著になってきた。昨年の秋には両国の防衛大臣と外務大臣が2プラス2の会談を行った。今後はこれが定例になるが、インドにとって例外的対応だ。そういう意味において、日本はインドにとって特別な国だ。
東アジアにおいて、日本とインドは中国の脅威に対し共通の認識を持っている。インドは中国と国境問題を抱え、日本も尖閣諸島などの問題を抱えている。インドは民主的な憲法を制定し、法の支配が確立されて今日まで一度もクーデターを起こしたことがない世界最大の民主主義国家だ。
一方、アジアで最も成熟している民主主義国家であるのが日本だ。この二つの国が自由と民主主義・法の支配というような観点から、共通の価値観を持っている。それと同時にこの両大国がアジアにおける責任を果たそうということが小泉内閣以来今日まで続いてきた。
一昨年まで13回、日印首脳が相互訪問している。その成果として、経済協力だけではなく宇宙開発から防衛まで包括的な関係を持っている。しかも数少ない2カ国間の関係として「特別グローバル戦略的パートナーシップ」というように、特別がつく関係というのはアジアにおいては極めて珍しい。
しかし日本は、民衆の中において、かつての日中関係のようなムードにまでなっていない。民間レベルでの経済交流はあるものの、留学生などはまだ少ない。
国家レベルの交流はうまくいっているが、国民がいまひとつインドの地政学的な重要性を理解していない。そして今後、日本が自由や民主主義、法の支配の秩序をアジアに維持し、世界に対しそれなりの役割を果たそうとするのならば、草の根レベルの交流が不可欠だ。技術的な交流や金銭的な支援だけでは未来につながらない。今回憲法制定71周年のこの機会を、インドを見直すきっかけにしてほしい。
草の根交流の鍵となるものは何か。
インドをよく知るためには文化や宗教を理解しなければならない。それが今後、重要になってくる。最近インドについて教える大学などが増えてきたものの、両国の留学生はまだ少ないのが課題だ。






