「日米韓にくさび」は陣営論理
“政熱経熱”の中韓(6)
李揆亨元駐中・韓国大使に聞く
近年の韓国の中国傾斜について李揆亨(イ・ギュヒョン)元駐中国韓国大使(63)に聞いた。李元大使は日米韓3カ国の連携より中国の立場を重視、その親中ぶりには驚きを禁じ得なかった。(聞き手=編集委員・上田勇実)

イ・ギュヒョン 1951年生まれ。ソウル大卒後、外交部入り。駐日韓国大使館1等書記官や国連代表部参事官、外交第2次官などを歴任。07年から約3年間ロシア大使、11年から約2年間中国大使として赴任。今年7月に行われた中韓初の官民合同対話「1・5トラック対話」 に民間人として参加。現在、サムスン経済研究所顧問。
――中韓関係に対する日本の関心が高い。なぜ韓国は中国との関係強化に偏るのか。
共産主義国の中国とは理念対決で1949年から国交樹立の92年まで43年間断絶していたが、関係断絶は正常ではない。国交樹立後は友好・親善を図っていくのが正しい。
中国は韓国にとって最大の貿易相手国となり、韓半島の平和・安全にとっても互いが重視している。中国の持続的発展には周辺国の安全が必要で、戦争や衝突は中国の国益に反する。もちろん中朝は伝統的に特別な関係だが、韓中関係が緊密になり、中国に理性的な考えが多くなったため、 一方的な対北朝鮮支持の立場にはないと確信する。
両国の間で共通分母が広がるのは当然のこと。それなのに「なぜあのように韓国は中国と近づくのか」という疑問を抱くこと自体、現状認識が正しくないのではないか。
――日米韓3カ国の連携にくさびを打とうとするのが中国の国家戦略との見方がある。その連携から韓国を抜き出そうとしているというものだ。
陣営主義的論理だ。韓国の立場で見た場合、過去、冷戦時代に共産主義から自由と人権を保障し、持続的な国家繁栄には陣営レベルの結束も重要だったが、もう冷戦は終わった。
過去の帝国主義時代への対応で韓国と中国は心情的に近づかざるを得ない。一方で、言論の自由や人権などを考えれば、韓国は日本と一緒であるべきだ。安全保障では、好戦的でどんな行動に出てくるか分からない北朝鮮の脅威を解消させるのが米韓同盟だ。
――南北統一の方法で韓国と中国には共通の政策なり方針ができているのか。
残念ながらまだ具体的な統一案に関して真摯(しんし)な対話や協議をするという段階には来ていない。我々が追求するのはどの政権でも対話を通じた平和統一であり、吸収や武力ではない。だが、日米中に平和統一をするので協力してほしいという段階までには至っていない。
――アジアインフラ投資銀行(AIIB)に対する韓国の立場は。
韓国は既存の先進勢力(欧米・日本)、中国を中心とする新興国の両グループに属している。既存先進勢力が新たなメンバー入りを歓迎しないようなので、中国は新しい勢力を作った。それを間違っているというのは帝国主義的な発想だ。
AIIBはアジアの貧困国のインフラ建設を支援し、各国が豊かになることに努力しようという趣旨だから反対できない。国際的慣例に合うか合わないかが問題だというなら、その慣例はいったい誰がつくったのか、韓国はそういう考え方ができる立場にいる。
中国はIMF(国際通貨基金)での出資比率を高めようとした際に米上院の反対でできなかった。中国が当初、自分のヘゲモニー(指導権)を念頭に置いたかは分からないが、米国はこれに反対したことで、普遍的価値を守る高尚なイメージに傷が付いたのではないか。
――サード(終末高高度)ミサイル防衛体系の韓国配備についてどう考えるか。
主権的決定事項だ。韓米、韓中関係などを考慮し、費用対効果や経済的負担も考えて韓国政府が判断する。国防に役立つと考えれば高額であったとしても導入すべき。周辺国に理解を求め、それでも不満を表明する場合は仕方がない。導入するしかないだろう。
――今月3日の「抗日戦勝記念式典」に韓国大統領が出席したことに批判がある。
日本の韓半島植民地化は正しくなかったし、韓国がそれを克服した行事に行けない理由はない。韓中は国交正常化も果たし、関係は緊密。中国が「義勇軍」として韓国動乱に参戦し韓国と戦ったが、国家元首が閲兵式に行くといっても韓国が中国の参戦を容認するわけではない。