中国が韓国誘う「歴史共闘」

“政熱経熱”の中韓(3)

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4日、上海で行われた大韓民国臨時政府跡の記念館再開館式であいさつする韓国の朴槿恵大統領=韓国紙セゲイルボ提供

 この夏、韓国で大ヒットした映画「暗殺」は、韓半島が日本の植民地統治下にあった1933年、上海と京城(ソウル)を舞台に「親日派」暗殺計画のため集まった独立軍と臨時政府の要員らの物語をアクション風に描いた作品だ。

 光復節(植民地から解放された日)70年に当たる先月15日、ソウル繁華街の明洞にある映画館は夜遅くまで大勢の人でにぎわっていた。ちょうどこの日、「暗殺」の観客動員が1000万人を突破したという。今年の興業成績トップだ。

 韓国人の多くは歴史に起因する日本への劣等意識を、映画やスポーツなどの世界で「日本に勝つ」ことにより払拭(ふっしょく)させようとするところが今なおある。

 観覧し終えた20代と思しき女性がエレベーターに乗るや「私の隣、日本人だったみたい。どういう気持ちで観ていたのかしら」と、一緒にいた友達に話し掛けていた。

 中国を舞台にした韓国の反日は現実の世界でも繰り広げられた。韓国の朴槿恵大統領が中国・北京で行われた抗日戦争70周年記念式典に参加し、その軍事パレードまで観覧。訪中期間、植民地統治時代に亡命政府としてつくった上海の大韓民国臨時政府跡の記念館再開館式にも顔を出し、「抗日歴史」の保存に精を出した。

 一連の行事を「日本人はどういう気持ちで見ていたのか」という、一国民ですら抱く配慮が、朴大統領にはあったのか。残念ながら日本側に伝わってくるものはない。それどころか韓国人である潘基文・国連事務総長までパレードに出席するなど「火に油を注ぐ」結果を招いた。

 韓国は中国と歴史認識問題で「共闘」することをどう考えているのか。東北アジア歴史財団理事長を歴任した鄭在貞ソウル市立大学教授はこう指摘する。

 「日本から受けた傷の深さが韓国と中国では違い、実は歴史で共闘すること自体、韓国にはできない。中国は実利主義の国でいつ日本の味方につくか分からない。先般の抗日戦勝行事は韓国が光復70年という節目で純粋な動機から参加したもので、共闘を呼び掛けたのはむしろ中国の方。中国は日本が勝手に『中韓が歴史共闘している』と思い込んで憤慨し、嫌韓感情を高めることを後ろで密かに喜んでいるはずだ」

 これは、2013年の中韓首脳会談で習近平主席が朴大統領に歴史認識での対日共闘を呼び掛けたが、拒否されたという経緯からしてもうなずける話だ。中国の狙いは日米韓3カ国の連携に楔(くさび)を打つことだろう。

 また、韓国は事大主義から中国と密接な関係を築いているとする見方にも同意しない。韓国紙セゲイルボで北京特派員を務めた姜浩遠論説委員はこう反論する。

 「朝鮮の王が屈辱を味わいながら中国に朝貢したのは生き残り戦術。長い歴史の中で朝鮮とベトナムだけが中国に吸収されなかった。毛沢東主席はかつて『朝鮮は放っとけ』と言ったという話があるくらいだ」

 少なくとも日本人には中韓が「歴史共闘」しているように見える。もしそこに中国の企み、韓国のプライドがあるとするなら、韓国は日本にそれを説明してしかるべきだが、安倍晋三政権の“右傾化”を理由に黙り込んだままだ。

(編集委員・上田勇実)