米中板挟みの安保ジレンマ

“政熱経熱”の中韓(7)

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米陸軍が開発したTHAADミサイル(Wikimedia Commons/米国防総省ミサイル防衛局)

 2010年に起きた韓国哨戒艦撃沈と延坪島砲撃は、中国が「犯人」である北朝鮮を糾弾してくれるに違いないという韓国側の期待が裏切られ、 韓国が対中政策を見直す契機になった。北朝鮮製の魚雷という確たる証拠を前にしても、中国は「北の仕業」という国際調査団の結論に最後まで慎重な姿勢を見せ、南北双方に冷静な対応を求めるという韓国としては極めて物足りないものだった。

 韓国政府はこの苦い経験を教訓に事件直後、外交部の対中業務を強化し、中国専門家による情勢分析チームと中国メディアをモニターする2チームを新たに立ち上げた。

 「中国は6カ国協議の議長国であり、国際社会の責任ある大国であると信じ、韓国が願う方向にやってくれるのではないかとの期待が大き過ぎた。今後の課題は中国をより正確に把握し、どのように韓国の協力者にするかだ」(外交部OB)。

 先月末、ソウルで米韓両国の保守系シンクタンクが共催する国際学術会議が開かれた。テーマは「北朝鮮の核問題」だが、さまざまな場面でカギを握る中国への対応が焦点だ。中国が韓国配備に反発している終末高高度防衛(THAAD=サード)ミサイルもその一つだ。

 会議で主題発表した金泰宇・元韓国統一研究院長は発表文で次のように述べた。

 「射程1000㌔未満のミサイル1000基以上を配置する中国が韓国のサード配備に脅威を感じ、軍事用を含む200基の衛星で韓半島を監視している中国がサード配備に伴うレーダーに脅威を感じるという主張は、時代錯誤の宗主国気取りさえにじんでいる。中国がサード配備に反対する本当の理由は、米中間の地政学的戦略競争という大きな構図の中に見いだすべきだ」

 北朝鮮の弾道ミサイル発射を迎撃するシステムとして韓国が米軍からサードミサイルを購入し、在韓米軍に配備することを検討しているとされる 問題で、韓国は自国安保に必要と判断した場合、中国が反対しても配備する可能性が高いとみられているが、米中のパワーゲームに巻き込まれるのは避けられない。

 またディーン・チェン米ヘリテージ財団上級研究員の「中国が考える安保の最優先課題は中国共産党が権力を維持する能力を有すること」という指摘は正鵠(せいこく)を射たものだった。だが、中国に傾斜する今の韓国が、この点をどこまで真摯(しんし)に受け止めるか定かでない。

 中国の安保政策が「本性」をむき出しにするほど、韓国は米中の板挟みに陥ることを深く感じていくだろう。こうしたジレンマを韓国の知中派専門家たちは「韓米同盟と韓中戦略的協力同伴者関係を調和し発展させる高度な外交力を要する」(李栄学・国防研究院上級研究員)、「韓半島問題が米中の葛藤を引き起こさないよう管理する」(朴炳光・国家安保戦略研究院東北アジア戦略研究室長)などと説明をするが、事実上の「二股外交」には懐疑的な見方もある。

 韓国は近年の米韓、中韓関係を「いずれも最高の状態」(尹炳世外相)とし、米中いずれとも良好な関係を維持しているのは「世界でもそう多くない」(同)と自画自賛するが、古代高句麗は中国の一地方政府だったとする中国の歴史プロパガンダ「東北工程」や第一・第二列島線と称される太平洋東進の軍事防衛線構想など、中国は「中華復興」の野望を何ら遠慮することなくひけらかしている。中国との“政熱経熱”に酔ってばかりいられない現実と背中合わせだ。

(編集委員・上田勇実)

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