AIIB参加に期待と不安

“政熱経熱”の中韓(2)

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 1997年の韓国大統領選で保守系野党の自由民主連合(自民連)は、金大中総裁率いる新政治国民会議(国民会議)との野党候補一本化を果たした。金大中氏当選後、連立政権を組むことになった同党は、中国政府の招請を受け幹部議員らが訪中することになった。
 時はアジア通貨危機の真っただ中。金鍾泌自民連総裁は訪中団に次のように頼んだ。

 「通貨危機は起こるべくして起こったというより、米国資本がアジア新興国を相手に仕掛けた経済工作という気がする。同じことを繰り返させな いためにはアジア地域、特に中国、日本、韓国が共同で対処する組織が必要だ。韓国としては『日本がリードしてほしい』とは言いにくいので、中国に行ったら『あなた方にリードしてほしい』と伝えてほしい」

 訪中団は江沢民国家主席(当時)に金総裁の伝言を伝えた。同じ提案を持ち掛けられた中国人民銀行の副頭取の返答はこうだったという。

 「いいアイディアで同感するが、中国はリードできない。まず共産主義国という中国の政治体制を近隣国が不安がっている。そして中国経済はまだ人民元を自由化できない。地域経済をリードするには通貨自由化が不可欠だが、今の中国はそれに耐えられないだろう」

 それから約20年。かつてアジア経済のリーダーたらんことを躊躇(ちゅうちょ)した中国は大きく変容した。アジアインフラ投資銀行(AIIB)創立を提唱 し、今年6月の設立協定署名式には欧州16カ国をはじめ世界57カ国が参加、日米が見送る中で韓国もメンバーに加わった。

 AIIB創立が「『世界の工場』となった次に中国がトップに君臨する経済圏をつくることを狙い、米国の退潮と中国の台頭という世界の構造変化 が明確に表れたイベント」(『AIIBの正体』真壁昭夫著 祥伝社)であったとしても、これが自国経済の起爆剤になると信じる韓国としては、ことさら参加を拒む理由はないというムードだ。

 これに加え韓国は、習近平主席が提唱した「一帯一路」構想に朴政権の「ユーラシアイニシアチブ」構想を連動させることも検討中だ。

 「一帯一路」は、中国西部から中央アジアを経て欧州につながる「シルクロード経済ベルト」(一帯)と、中国沿岸部から東南アジア、インド、 中東の沿岸部、アフリカ東岸を結ぶ「21世紀海上シルクロード」(一路)の二つの帯状地域でインフラ整備などの経済活性化を図るという壮大な構想で、これを支えるのがAIIBだ。

 一方の「ユーラシアイニシアチブ」は、北朝鮮・ロシア・中国・中央アジア・欧州を結ぶ物流・交通・エネルギーのインフラ構築と一大単一市場化を目指す。

 いずれもまだ「夢物語」の域を出ないが、韓国では早くも「相互の戦略的連携」(政府系の統一研究院)がうんぬんされるあたりは、近年の中韓接近の影響もあろうか。

 国交が樹立した1992年にわずか64億㌦だった両国間貿易額は昨年37倍の2354億㌦に達し、自由貿易協定(FTA)も妥結した。韓国の対中経済依存は年々深まっている。しかし、先月の中国当局による人民元切り下げ介入など中国経済の透明性には問題も多い。97年の自民連訪中団に加わった李東馥元議員は、今の中国経済をこう評した。

 「中国は自分の実力以上の主張をしており、そこには明らかにバブル的要素があるが、このバブルを管理しきれずにいる。当局の為替介入を見て 20年前を思い出した。まだ中国経済には韓国が不安を抱く体質が残っている」

(編集委員・上田勇実)