共産党一党独裁に「無頓着」
“政熱経熱”の中韓(4)
中国が誇る世界的保養地マカオに隣接する広東省珠海市で今年7月、韓国と中国の官民合同による初めての討議の場「第1回韓中1.5トラック対話」が開かれた。出席者は双方から10人ずつ。2泊3日のスケジュールで、2日目に集中討議の時間が設けられた。
「中国側は政府の意向を受けて発言するのかと思ったら随分フランクに話をしていた。敏感な懸案事項は避け、とりあえず友好ムードを心掛けているようだった」
韓国側出席者の一人、劉尚哲・中央日報編集副局長はこう話す。中国側からはこうした会議ではお決まりの文句である「尊敬する○○様」という格式張ったあいさつもなく、打ち解けた雰囲気が演出されたという。
テーマは「外交・安保」「経済」「文化・マスコミ」の三つ。必ずしも両国関係の専門家とはいえない人たちも交え、「むしろ楽に話せたし、普段生活しながら相手の国をどう思っているのか忌憚(きたん)なく意見交換できた」(劉氏)。
韓国側が拍子抜けするほど好意的な中国側の態度には、韓国を「親中国家」にしたいという「ソフト戦略」が隠されているようにも思える。
韓国は朴槿恵大統領の「個人的な中国志向」(韓中関係筋)や順調に回を重ねる両国首脳会談の影響もあり、世論の対中意識はおおむね良好だ。昨年、韓国の民間シンクタンク峨山政策研究院が世論調査結果を基にまとめた韓国人の中国観に関する報告書によると、中国に対する好感度は10点満点で5点弱。 2点台にとどまる日本や北朝鮮を大きく上回り、6点弱の米国に迫っている。
韓国人の中国に対するイメージは「広大な領土と世界一の人口を抱える国、急速な経済成長を遂げている国」(同研究院)であり、非民主的な社会、言論・情報統制、信仰の自由への不寛容、軍事力を背景にした海洋覇権主義など「負の側面」にはあまり目が向いていない。
一時期、中国が北朝鮮の武力挑発に「表向き反対、本音は黙認」という曖昧な態度を示したことでくすぶる中国への不信、不満も朴政権発足後は減退傾向にある。「中国は韓半島有事に北朝鮮を助けるため介入すると思うか」の問いに2012年の時点では「介入する」が75・9%に達して いたのが、昨年はわずか34・9%。中朝関係の冷え込みもあろうが、中韓接近によるところが大きい。
韓国人の中国観で最も解せないのは、韓国人の多くがいつの間にか共産党による一党独裁という「中国の本質」に無頓着になってしまった点だ。 朴大統領の父、朴正煕元大統領の時代には「反共」や「滅共」という言葉が当たり前に使われ、都市から田舎まであちこちにその看板が見られた が、もはや死語になりつつある。
「価値観や制度、理念が自分たちと違うと感じるのは中国と接する韓国のエリート層くらい。一般の国民は共産党うんぬんには関心がなく、中国を通じ韓国経済が恩恵を受けているという事実がただただ大きい」(韓国国家安保戦略研究所の朴炳光氏)のだという。
80年代末、旧ソ連や東欧のドミノ式体制崩壊で冷戦が終結し、韓国はロシアや中国と相次いで国交を樹立する「北方外交」に乗り出した。その後、両国とは良好な関係を築いてきた。中国を「共産主義国」という敵対意識を込めて「中共」と呼んだのはもう昔話だ。
現在、韓国で中国共産党政権を公然と批判するのは、中国政府の弾圧を逃れ細々と活動する気功集団「法輪功」の学習メンバーくらいではなかろうか。
(ソウル・上田勇実、写真も)






