「文化侵略」孔子学院が普及

“政熱経熱”の中韓(5)

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ソウル市江南区にある「ソウル孔子アカデミー」

 「無条件に中国を好きにならなければなりません」

 ソウルで富裕層が多く住む高級繁華街、江南の一角にある「ソウル孔子アカデミー」の学院長は、インターネットサイトに掲載したあいさつ文の中でこう呼び掛けている。

 孔子アカデミーは一般的に孔子学院と呼ばれ、中国政府が海外の教育機関と提携して中国語や中国文化を広めるため開設した非営利団体で、一部予算を中国政府が負担する。

 台頭著しい中国が世界にその影響力を広める文化コンテンツとして注目したのが儒家の始祖で「論語」で知られる孔子だったといわれる。現在、世界約100カ国に450校以上あるという孔子学院のうち、一番最初にできたのがソウル孔子アカデミーだ。

 昨年9月に設立10周年の記念式が行われた際、学院長をはじめ孔子学院を置く各大学の総長ら総勢286人が連名で習近平・中国国家主席にこ んな手紙を宛てた。

 「中国語と中国文化への理解が深まるにつれ、一般大衆も中国を競争相手ではなく国際的パートナーと認識するようになっています。孔子アカデミーの革新的な事業がある程度寄与したものと考えます。実際、孔子アカデミーは世界平和と国際協力のため絶えず努力する中国の姿を象徴的に見せてくれる機関だと言えます」

 「世界平和」「国際協力」という言葉は、東シナ海や南シナ海などで力による現状変更の試みを繰り返し、抗日戦勝記念式典で米国に対抗する大規模軍事パレードを行う“張本人”には凡そ似つかわしくない。手紙は最大級の賛辞を中国と習主席に送っている。

 孔子学院は「建前とは異なるその政治的プロパガンダ」(中韓関係筋)ゆえ、これまで米国で物議を醸し、閉鎖に追い込まれたケースもある。しかし、韓国では今のところその種の問題は表面化していない。

 なぜソウルが孔子学院第1号だったのか。中国問題に詳しい韓国大手紙中央日報の劉尚哲編集副局長はこう指摘する。

 「同じ漢字圏であり、儒教精神も残る韓国がテストケースだったのではないか。中国政府は威信を掛けている分、失敗できないという強い思いからまずは普及しやすい韓国を攻略しようと考えた可能性はある」

 当初、孔子学院の開設には「文化侵略の匂いがした」(劉氏)ため、これに応じたのは財政的にあまり余裕がない地方大学が圧倒的に多かった。 中国政府の財政支援で学院を開設すれば、それだけで人気のない地方大学としては受験生を呼び込むことができる。国費奨学生として中国有名大学 に留学する道も開かれている。ソウルの一流私大、延世大学が開設に踏み切ったのは、ようやく一昨年になってからだった。

 最近では大学だけでなく、高等学校や中学校にまで開設され始めた。南西部の全羅北道完州郡では唯一、韓国の中学校で孔子学院が運営されており、先月は中国から派遣されていた学院長が帰国することになり、地元議会から功労牌が手渡された。

 孔子学院普及の実態にある関係者は眉をひそめた。

 「中国の狙いは韓国を親中国家にし、東アジアで中国主導の新秩序を築くことだ。今後は一般大衆向けの孔子学院だけでなく、エリート層にも文化的アプローチをしてくるだろう」

(編集委員・上田勇実、写真も)