ACORNの闇(上) 金融危機に間接的に加担
再考 オバマの世界観(15)
2008年米大統領選は、9月にリーマン・ショックが発生するまでは大接戦だった。だが、一気に深刻化した金融危機は、与党共和党候補のジョン・マケイン上院議員に猛烈な逆風となる。これでリードを広げた野党民主党候補のオバマ氏が、そのまま大差で勝利を収めた。
金融危機が大統領選の流れを決定付けたと言えるが、実は、危機の発端となった低所得者向け高金利型(サブプライム)住宅ローンの拡大に、オバマ氏は間接的に関与していた。金融機関に対するヤクザまがいの脅迫戦術で、返済能力の乏しい低所得者に住宅ローンを提供させた過激な左翼団体「即時改革のためのコミュニティー組織協会(ACORN)」と、オバマ氏は蜜月関係を築いていたのである。
ACORNは住宅ローンの貸し出しでマイノリティーが差別されているとして、金融機関に対し、低所得者もローンを利用できるように貸し出し条件の緩和を要求した。これに従わない金融機関には法的措置を講じたほか、会社ロビーや幹部の自宅に運動員を送り込んで抗議行動を展開。多くの金融機関がACORNの圧力に屈した。
歴史家ジョハン・ノルバーグ氏によると、金融機関への脅迫戦術で最も成功した活動家の1人が、ACORNシカゴ支部のリーダーだったマデレーン・タルボット氏だ。複数の金融機関に低所得者への住宅ローン提供を同意させた「キープレーヤー」だという。
過激な脅迫戦術でその名を轟かせたタルボット氏と緊密な関係にあったのが、他ならぬオバマ氏だ。オバマ氏の有能な仕事ぶりに感銘を受けたタルボット氏の依頼で、オバマ氏はACORNの幹部教育を担当。また、オバマ氏が1992年に有権者登録運動「プロジェクト・ボート」の責任者を務めた際は、タルボット氏が運営委員としてオバマ氏を支援した。
一方で、ACORNは議会へのロビー工作にも力を入れた。連邦住宅抵当金庫(ファニーメイ)と連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)の政府支援企業(GSE)をサブプライムローン問題に巻き込む分岐点となった92年成立の通称GSE法に深く関与したのがACORNだった。
元ファニーメイ副社長のエドワード・ピント氏によると、ヘンリー・ゴンザレス下院銀行委員長(当時)から委任を受けたACORNが、ファニーメイとフレディマックに低所得者向け住宅ローンを買い取らせることや引き受けるローンの基準を緩和させる内容を法案に書き込んだのだという。
金融危機は複合的要因によるものだが、ACORNの責任を問う指摘は多い。ピント氏は「97年に始まった住宅バブルは、ローンの基準を緩和させた政策の結果だ。そのキープレーヤーの一つがACORNだ」と非難した。
下院監視・政府改革委員会も、2010年にまとめた報告書で「ACORNは金融機関を威圧して極めてリスクの高いローンに同意させ、住宅市場崩壊をもたらした」と断罪した。
オバマ氏は大統領選で、マケイン陣営からACORNとの関係を追及されたが、ごく一部しか認めなかった。両者のつながりが「長く、深い」(同陣営)ことは事実であるにもかかわらず、有権者を欺く不誠実な対応に終始した。
早い時期からサブプライムローン問題の危険性を警告し、ファニーメイとフレディマックへの規制強化を訴えていたマケイン氏が敗れ、金融危機に間接的に加担したオバマ氏が勝利した大統領選。実に皮肉な選挙結果である。
(ワシントン・早川俊行)