隠された革命家の素顔 手本は堕天使ルシファー
再考 オバマの世界観(12)
本の著者は、家族や友人ら愛する存在に献辞を記すのが一般的だ。だが、オバマ米大統領に大きな影響を与えたシカゴの極左活動家ソウル・アリンスキー氏は、1972年に急死する1年前に出版した「過激派のルール」で極めて意外な存在に献辞を書いている。
アリンスキー氏が同書を捧(ささ)げた相手とは誰か。その名は「ルシファー」。そう、キリスト教でサタンと認識されている堕天使である。創造主である神に逆らって天を追放され、地獄の主となったルシファーを、アリンスキー氏は不気味に、「エスタブリッシュメントに反逆し、効果的に自らの王国を勝ち取った最初の過激派」と称賛したのである。
保守派評論家のディネシュ・デスーザ氏は、アリンスキー氏がルシファーを評価する背景を探るため、「失楽園」で知られる英国の詩人ジョン・ミルトン研究の権威スタンリー・フィッシュ氏にインタビューを試みている。それによると、神に反逆したルシファーが用いた戦略とは、①分極化(神に対する宣戦布告)②悪魔化(神を圧制者に仕立てる)③組織化(他の天使を反逆に加わらせる)④欺瞞(ぎまん)(神と人間を欺く)――の四つから成るという。
「これらはアリンスキー氏の戦略の中核だ」。デスーザ氏は、アリンスキー氏が確立した戦略はルシファーのそれと完全に一致すると指摘する。
デスーザ氏によると、ルシファーがイブを狡猾(こうかつ)に欺いたように、アリンスキー氏も民衆を巧みに欺くことを説いた。ベトナム反戦運動が盛んだった1960年代、長髪で不潔な格好をし、国家権力に卑猥(ひわい)な言葉を使う過激派活動家を、アリンスキー氏は民衆を遠ざけるだけだとして軽蔑した。本性は革命家でも、革命家と見られないよう、身だしなみを整え、民衆の味方を装うことを奨励した。
インターネット上ではオバマ氏の若い頃の写真が見られるが、その中にはアフロヘアでたばこを吸う姿もある。そんなオバマ氏が、現在のようにスーツを見事に着こなす洗練された人物へと“変身”したのは、アリンスキー氏の教えに「戦略的価値を認識した」からだと、デスーザ氏は見る。
また、アリンスキー氏は「過激派のルール」で、米国社会の中心である「ミドルクラス(中間層)の価値観や生活様式」を打倒することが最終目標であることに同意しながらも、中間層を敵視するそぶりを見せてはならないと戒めた。むしろ、自ら中間層になりきり、彼らが直面する悩みや困難に同情を施すことにより、「中間層を過激化」できると説いたのである。
オバマ氏は常に、自らを中間層の味方だと喧伝(けんでん)してきた。著名な保守派活動家フィリス・シュラフリー女史は著書「至高の権力」で、「オバマ氏は中間層を操るアリンスキー氏の教えに従い、忠実に『ミドルクラス大統領』を名乗っている」と断じる。
オバマ氏が米国の主流から懸け離れた超リベラルな政治家であるのは疑いの余地がない。上院議員時代の2007年、66の重要採決のうちリベラルな立場を取ったのは65回に上り、政治情報誌「ナショナル・ジャーナル」から「上院で最もリベラルな議員」と判定された。
だが、「リベラルの米国も保守の米国もない。米国があるのみだ」と訴えたオバマ氏を、多くの有権者は超党派政治、国民融和を目指す指導者だと信じた。
超リベラルの素顔を覆い隠し、中間層の支持を集めて大統領に上り詰めたオバマ氏を、シュラフリー女史はこう評する。
「オバマ氏はアリンスキー氏の計画の結実だ」
(ワシントン・早川俊行)











