景況感悪化、消費税増税実施の再考も


 今年10月予定の消費税増税を実施するには、経済環境が厳しくなりつつあるようだ。日銀の3月全国企業短期経済観測調査(短観)でも、景況感の悪化が示されたからだ。政府予算で増税に伴う景気腰折れを防ぐ対策を盛り込んだ2019年度がスタートしたばかりだが、既に景気後退入りしたとの見方もあり、増税実施には熟慮、再考を要する状況になってきた。

米中摩擦の影響鮮明に

 3月の日銀短観は、企業の景況感を示す業況判断指数(DI)が大企業製造業でプラス12となり、前回の昨年12月調査(プラス19)から7ポイント低下した。低下幅は12年12月(9ポイント)以来6年3カ月ぶりの大きさで、第2次安倍政権発足後では最大の悪化である。

 米国と中国の貿易摩擦の影響が鮮明になり、輸出や生産が落ち込み、主要企業のマインドを冷やしている。電気機械や生産用機械の落ち込みが目立ったが、「幅広い業種で貿易摩擦の影響を指摘する声が上がった」(日銀調査統計局)という。

 中小企業製造業も東日本大震災直後の11年6月以来の業況悪化になり、3カ月後の見通しは大企業製造業をはじめ、大企業非製造業、中小企業製造業、中小企業非製造業とも一段の悪化を見込む。

 今回の調査で19年度の大企業全産業の設備投資計画は、前年度に比べ1・2%増となった。景況感が悪化する中でもプラスを維持し、景気腰折れという最悪のシナリオは回避された形だが、輸出を左右する米中貿易摩擦や中国経済の動向、英国の欧州連合(EU)離脱問題の行方は不透明で、早期に明るい展望が見込める状況にもない。

 製造業の景況感悪化が続くようだと、今回3ポイントと小幅な悪化で済んだ(大企業)非製造業への影響も顕著になってこよう。最近発表された経済指標は、景気動向指数をはじめ機械受注、月例経済報告など、雇用関係を除きいずれも芳しくない。

 期待された主要企業の賃上げも2%前半と前年度以下の水準に終わった。

 政府、日銀は「景気は緩やかに拡大」との強気の見方を崩していないが、昨年秋をピークに景気は既に後退局面に入っている可能性があるとみる識者は少なくない。まもなく始まる米国との貿易交渉では、米国が強硬な手段に出てくることも予想され、自動車産業を中心に悪影響が出てこよう。

 このような危うい経済状況の中、予定通り、消費税増税が実施されれば、10月以降は消費が落ち込み、景況感が一段と悪化することが懸念される。増税実施に対する熟慮、再考が求められる所以である。

機敏な対応が必要だ

 新年度予算では増税による景気腰折れを防ぐ2兆円規模の対策を講じ、食料品などには異なる税率を適用する軽減税率が初めて採用される。

 景気の後退局面に追い打ちをかける増税は、経済政策として本来望ましいものではない。目的とした税収の安定的確保も、経済の悪化から損なわれる恐れが強い。それでも実施するのであれば、予断なく状況に応じた機敏な対応が必要である。