戦力・交戦権奪われる謂れなし
戦争仕掛けられた日本
改憲しても国防の危機継続
3月25日、自民党は党大会を開き、第9条第2項を護持し、第9条の2を新設して自衛隊保持を明記する「日本国憲法」改正案を確認した。しかし、私は、何度も本欄で述べてきたように、第2項を護持する自民党案に強く反対する。
第一に、自民党案に基づき「日本国憲法」改正がなされたとしても、現在存在する国防の危機は無くなりはしない。現在の法体制下では、交戦権を否定され軍隊ではないとされる自衛隊は、「防衛出動命令」が発令されない限り、基本的に警察の役割しか果たせない。
例えば、米国ではなく日本が中心的に対処しなければならない尖閣防衛の問題を考えてみよう。よく想定されるのが、尖閣諸島魚釣島に中国漁民が不法上陸するケースである。漁民が上陸すれば、漁民保護という名目で中国海軍が領海に入って、占領を固定化することが予想される。これを武力攻撃されていると見なしにくいので、海上保安庁の巡視船が対応することになる。
仮に中国軍艦が巡視船を撃沈すれば、「防衛出動」ができる。だが、漁民の不法上陸から総理大臣による「防衛出動命令」が出るまでに最低3日かかる。そもそも、与党の親中派や野党などの妨害で「防衛出動命令」が出ない可能性も相当にある。そして、「防衛出動命令」が出ても、命令が出てから作戦計画を立て、出動準備をするので、最短でも1週間ぐらいかかる。下手をすれば、半年もかかるかもしれないという。結局、一番素早く行動したとしても、上陸以来10日間ほどかかって初めて戦える体制になる(中村秀樹著『日本の軍事力』K・Kベストセラーズ、2017年)。
しかし、10日間の間に、尖閣は完全に固められるだろう。日本側の勝利は極めて困難となるばかりか、自衛隊が攻撃すれば、西欧などから見れば日本側が侵略者に見えることになろう。何とか戦ったとしても、交戦権を否認された日本と認められた外国とでは、やれることが違うので、勝負にならないことは前に述べた通りである。自民党改憲案が通っても、この危うい国防体制は全く改善されないのである。
第二に、諸国民が持っている交戦権と戦力を持つ権利を日本が否定される謂(いわ)れは全くない。仮に学校教育で教えられているように日本が侵略戦争を行い「南京大虐殺」などを行った犯罪国家であったとしても、日本に対してだけ戦力も交戦権も認めないのは、明らかな日本人差別であり、国際法的にも国内法的にも許されないことである。独立国家である限り、戦力と交戦権を持つ権利があるし義務がある。このようなことは、左翼やリベラルも所謂(いわゆる)保守派も一応分かっていると思われる。だが、それでも、日本の軍事力を抑えなければならない、戦力も交戦権も認めない方がよいと思うのが現代の日本人である。
なぜ、そんなふうに思ってしまうのか。真面目な日本人は、侵略戦争論と犯罪国家論を何十年も注入され続けた結果、悪いことをした日本は「日本国憲法」を押し付けられても、戦力と交戦権を奪われても仕方がない、または当然だ、と考えてしまうのである。
しかし、今世紀に入ったころから「南京大虐殺」の虚構性も、戦争を仕掛けたのは中国側であったことも明白になってきた。最近では、日本の民間人が大量虐殺された通州事件が、国民党と共産党による計画的なものだったことが分かってきた。しかも、田中秀雄著『日本はいかにして中国との戦争に引きずり込まれたか』(草思社、14年)を読むと、中国軍の本質が匪賊(ひぞく)軍であったことがよく分かる。
田中氏は、第2次上海事変の終盤の話として、「十月三日、安達二十三大佐率いる歩兵第十二聯隊は羅店鎮の南の劉家宅を占領した。遺棄死体の中に婦女子の死体がやたらに多く二百五十体にも上った。不思議に思い、捕虜を尋問したところ、付近の妙齢の女性を大量に連行し、掠奪した着物を着せて弄んでいたことが発覚した。安達部隊の猛攻が息を継がせないほどだったので、連れ歩くのが面倒となり、また暴行が日本軍にばれるのを恐れて機関銃で射殺して退却した」(315~316ページ)と記している。
中国軍は、匪賊軍の本質にふさわしく、女性を連行し性奴隷として扱っていたのである。要するに、中国こそが戦争を仕掛けた侵略国家であり、犯罪国家である。
にもかかわらず、なぜ、戦争を仕掛けた側が交戦権を持つことを許されて、仕掛けられた側が交戦権を否定されなければならないのか。なぜ、匪賊軍でしかなかった側が戦力を認められて、最も軍律厳しい軍隊を持っていた日本側が戦力を否定されなければならないのか。法の精神に反する、極めておかしな話である。
ともかく、政治家や言論人に望む。戦時国際法と戦争史を学習されよ。そして、日本人が差別される謂れは皆無であることを認識されよ。さすれば、自民党改憲案の理不尽にも思いが必然的に及ぶことになろう。
(こやま・つねみ)