日本の外交はどうあるべきか

元在ウィーン国際機関日本政府代表部大使・元駐ニュージーランド大使
遠藤 哲也

遠藤 哲也

国際協力と協調推進を
中長期的な目標設定が必要

 このような大上段に構えたテーマについて意見を述べるには、いささかじくじたる気がするが、筆者は50年近くの職業人生の大半を直接、間接に日本外交に携わってきたので、その経験などを基にして、思うところを述べてみたい。

 まず初めに、やや結論めくが日本外交が準拠すべきガイドラインについて述べ、次いでこれまでの日本外交をどう評価するか、最後に中長期的視野に立って、日本外交はどうあるべきかについて考えてみたい。

 第1に外交の主目的は国益の追求であるが、それは短期的にも重要であるが、それ以上に中長期的な視野が必要である。かつ、開かれたものでなければならない。

 第2に国際社会は次第に組織化されているとはいえ、依然として主権国家が中心で百鬼夜行のようなところがあり、国内政治以上に一寸先は闇である。極言すれば、国にとって永遠の友もいなければ、永遠の敵もおらず、あるのは国益のみである。

 第3に外交は詰まるところ、国家間の妥協であり、完勝を求めてはいけない。例えば、6分4分の割合で妥協が成立すれば成功と考えるべきである。

 第4に外交は昔流で言えば、床屋政談、今風ではワイドショーの対象になりやすく、それはそれで良いところもある。ただ外交には一国の運命がかかっており、真剣勝負で臨むべきものである。ポピュリズムに流されてはならない。

 第5に外交は継続を必要とするが、他方、柔軟性、弾力性を合わせ必要とする。「船に刻して剣を求む」という戒めがあるではないか。

 第6に外交には情報、策略が必要であるといわれるが、基軸は誠実と信頼である。いったん約束したことは、たとえ火の中、水の中でも守っていくことが必要で、これは国益につながる。

 政治・外交の評価は結果であり、かつ人の評価は棺(ひつぎ)を覆ってからといわれるように、外交についても時代の考証を得なければならない。明治維新後の150年の日本の近代外交史は筆者には四つの時期に大別されるように思われる。

 第1期は明治維新から大正期まで、第2期は中国への武力進出が本格的に始まってから満州事変、日中戦争を経て太平洋戦争の終わりまでである。第3期は敗戦から東西冷戦終結まで、最後第4期は1990年代から現在に至る。

 第1期は、いわゆる「坂の上の雲」の時代で、富国強兵をてこに二つの戦争に勝ち、治外法権の撤廃、関税自主権を勝ち取り、文明国として世界に認められ、列強の末端に加えられた。日本外交の成功の時期であった。

 第2期は外交が軍部に呑(の)み込まれた時代であった。国際協調により、対外進出を図ろうとする日本外交は、軍部の力に押され、国際連盟からの脱退に象徴される国際的孤立の道を歩んだ。日中戦争の泥沼に足を取られ、欧米を敵に回し、太平洋戦争に突入していった。日本外交にとっては暗い時代であった。

 第3期は戦後外交の時期である。対米協調、経済外交重視、軽武装の3本柱を軸とする「吉田ドクトリン」が、その中心であった。戦争にも巻き込まれず、高度経済成長を成し遂げ、日本は世界の大国となった。

 最後の第4期は冷戦終結から現在に至っているが、これは目下、現在進行中なので、評価の対象とはならない。

 これからの世界はより一層、複雑、流動的、不確実になっていくものと懸念される。グローバリゼーションは一層進むだろうが、そのため、あるいはそれが故にと言ってもよいが、ポピュリズムに煽(あお)られたナショナリズムの傾向が強くなるであろう。そのような世界で、中国の拡張は著しく、その力は米国に接近してくるものと見られる。他方、日本はと言えば、人口減と少子高齢化は必至で、また内向きになりがちで、大国の地位を維持できるのかどうか。日本が今後とも世界から尊敬される、きらりと光る一流国であり続けるには、日本の外交はどうあるべきか。前述のガイドラインを参考にしつつ、幾つかの指針を挙げてみたい。

 まず積極的な国際協力と協調である。短期的には多少、身を切ることがあっても、中長期的な視野に立った協力を進める。世界を引っ張っていくくらいの心構えが必要である。ハード面での協力も必要だが、今後はソフト面に、より力を注ぐべきである。

 次に価値観を同じくする諸国との関係の維持、強化である。米国との関係は特に大切である。ただし、米国に対して、「ノー」と言うことも、日本の意見を率直に述べることも必要で是々非々の態度で臨む。豪州、インド、東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国との関係も重要である。また、西欧諸国とは以前より少なくとも感覚的には疎遠な関係になっているような気がするが、関係の再構築が求められる。

 さらに中国、朝鮮半島、ロシアは地政学的に極めて重要な隣国であり、どう付き合っていくか、中長期的視野に立った冷静なビジョンが必要である。

 いずれにせよ、日本外交には状況対応型から数歩進んで、中長期目標が必要で、そこには理想主義と現実主義のミックス、冷静さと専門的知見が求められる。

(えんどう・てつや)