国家の「実が固まる」年に

300政治ジャーナリスト 細川 珠生

問題対処の諸改革必要

首相に期待したい憲法改正

 「丙申」である2016年は、「形が明らかになっていく」「実が固まっていく」年という意味があるという。そうであるならば、日本という国家も、「実が固まり」、大きな前進が見られる年になるのではないかと期待する。

 昨年9月27日に第189通常国会が閉会してから99日目の今月4日、第190通常国会が開会した。昨年は「安保一色」で、245日間の長期国会となったが、結局1年の4分の1は国会が開かれていなかったということでもある。昨年、国会閉会後の10月に行われた内閣改造後、新大臣の所信表明を聞くこともなく、約3カ月が過ぎたというのは、異常な状態であったことも事実だ。国会での審議は、それだけが政治活動ではないとも言われるが、政治家の役割の要である。国会論戦を通じ、国民は今、何をどのように決めようとしているのかを知る。国会という存在を甘く見てはいけないのである。

 2016年になり、松の内が明ける前に始まった国会では、総理の外交報告から始まった。合わせて行われた麻生財務大臣の財政演説は、今年度補正予算案に関する演説であった。主な内容は、「一億総活躍社会」「テロ対策」等であり、政権が今、最優先としている課題が明らかになった。今月末に国会に提出される予定の2016年度予算案と共に、第三次安倍改造内閣として、何をどう進めようとしているのかを、注視していかなくてはならない。

 予算案の提出後に行われる総理の施政方針演説では、どのような国づくりを目指しているのか、長期政権に入った安倍総理の考えに注目したい。今、日本が抱える問題の根源は、私は大きく分けて3点あると考えている。

 一点目は、少子高齢社会による人口構造の変化。二点目は、科学技術の急速な発達。三点目は世界情勢の変化である。今の小学生が社会にでる約20年後には、現在、存在している仕事の3割以上はなくなるとも言われている。そう遠くない未来に生きる子どもたちのために、社会のあらゆる制度の改革や発想の転換が求められているのだ。そのような視点で安倍総理は何を語り、どのような政権運営を行っていくのか、施政方針演説の中で語られる内容に国民も関心を持ってもらいたい。

 昨年は、安保一色であったが、それを一つの契機にして、多くの日本人が“初めて”国防について考えるようになった。世界でテロの脅威が高まり、日本人も犠牲になった。日本の近隣では尖閣諸島周辺のみならず、その南の海域でも中国の身勝手な行動に周辺国は怒りを覚え、連携した行動が求められるようになった。

 その南沙諸島沖を通過する船舶の中には、日本が中東から買い入れている石油を積載したものも含まれ、テロを頻発させているIS(「イスラム国」)も、南沙諸島沖問題も、日本にとっては他人事では済まされず、自分たちの生活に直結するかもしれない重要な問題なのである。サウジアラビアとイランの国交断絶など、新年早々、さらに不穏な空気が中東から押し寄せてきた。そのような世界の変化の中でも、日本人はなかなか「一国平和主義」の考えを改めることができない。しかし、そろそろこの考えからは本気で脱却しなければならないはずだ。

 そのためには、私たちの「平和ボケ」の精神を形成するのに大いに“貢献”してきた憲法を改めることだ。日本国憲法の「顔」とも言える前文には、どんな国でも信頼さえすれば、私たちの平和は守られ、存在していくことができると書いてある。また、いついかなる時も、自衛隊の持つ高い能力は極力使わないとしている。これが、日本人の平和ボケ精神を形成した根源であるが、平和が守られ、私たちの存在も守られるどころか、北朝鮮による拉致問題や北方領土や竹島などにみられるように、平和が守られているとはとても言い難い。

 現憲法が制定され、今年で70年となり、憲法改正の必要性は長く指摘されてきたが、改憲への道のりは本当に遠いというのが、私自身も実感するところだ。しかし、安倍総理は、この3年間「国民的議論を」という憲法改正に対するスタンスは一度も変わらず、それが改憲派からはもどかしくも思われてきたが、3年間言い続けてきたことを私は大いに評価したいと思う。歴代の内閣では、憲法順守義務があることを理由に、それまで改正の必要性を訴えてきた人であっても、急に他人事のような素振りになることも多かった。いや、ほとんどの人がそうであったと言っても過言ではないだろう。

 自民党は結党の原点に立てば「自主憲法制定」が党是でもあり、それを国政選挙の公約として掲げることは当然のことである。しかし、安倍総理は年頭記者会見で、参議院選の公約として「自民党として(改憲を)しっかり訴えていきたい」と冷静に発言した。歴代、特に近年の総理大臣からは聞かれなかったことである。

 このことからも、憲法改正が、いよいよ「形が明らかになっていく」「実を固める」という丙申という年回りにピッタリの成果となるのではないかと、大いに期待するのである。そのためにも、私たち国民こそが、どのような国であるべきか、国民であるべきかをしっかりと考え、候補者を選んでいかなければならない。18歳選挙権という新たな選挙制度の中で、有権者としての自覚と責任が求められている。

(ほそかわ・たまお)