地方過疎化の危機 苫小牧市議会議員 櫻井 忠氏に聞く

活性化、自ら考え行動する時期

 第3次安倍内閣がスタートした。新内閣の柱はアベノミクスの進化とともに、地方創生の実現がある。人口減少、地方の過疎化に伴う自治体消滅の危機が叫ばれる中、地方創生をどのように実現していくか、苫小牧市議会議員の櫻井忠氏に聞いた。
(聞き手=湯朝肇・札幌支局長)

北海道復興の鍵握る苫小牧/地理的優位性に発展の道

子宮頸がんワクチン被害者遅延性副反応にも検証必要

400 ――安倍政権が打ち出す地方創生についてどう思いますか。

 将来の人口減を想定して、地方では若いお母さんたちが減少し、それによって子供が少なくなり、過疎化が進行してついに自治体がなくなる。そうした危機を打開すべく安倍政権が地方創生を打ち出した。私個人としては、人口減少が続いても別の力が働いて地方が近い将来、消滅することはないと思うが、そういう危機感を持って、そうした事態に備えるために政策を考え、実行するのは正しい判断だと思う。また、地方自治体もすべて国や道、県に任せるのではなく、自ら地域を活性化するためにはどうすべきなのか、特区や広域的な側面を持って考えていかなければならない時期に来ている。

 例えば、苫小牧市に限った話であるが、現在、カジノなどを含めたIR(統合型リゾート)構想を打ち出し、議会などでも議論されている。市は、将来の少子化社会の到来の中でIRは地域活性化に向けた重要なファクターだと強調。特にカジノで働く場合、従業員には外国語の習得が要求され、4カ国語話す人も出てくるだろう。ある意味で質の高い労働が集まるので同構想は地域活性化には極めて有効だという。ただ、私としては正直、カジノを含めたIR構想に対しては、別に反対するものではないが、そうでないやり方もあるのではないか、と考えている。カジノをつくらなかったら苫小牧市は消滅してしまうのか、といえば決してそうではない。むしろ、今やるべきはもっと他にあるのではないか。市民の間には、反対の意見も根強い。教育的な側面、地域の風紀、あるいは一部にギャンブル依存症が増えるとか、不安な側面が結構ある。従って、IR構想の華やかな面ばかりでなく、きちんとメリット、デメリットを示し、市民を含めた議論が必要だ。

 ――全国的に地方は人口減少が続いている中で、苫小牧市の人口は僅かながらでも増えています。そういう意味では苫小牧を中心としたこの地域は活性化のチャンスがあると思いますが。

 確かに人口減少が全国的に深刻な社会現象になっている中で、苫小牧市の人口は横ばいか、微増となっている。従って、今後の動向を見ても、仮に人口減になったとしても苫小牧は、そんなに急激な減り方にはならない自治体だと思う。従って、今のうちに、産業振興を進めていく必要がある。幸い、苫小牧の隣町は千歳空港のある千歳市で、空の玄関口となっている。もっとも、新千歳空港の面積の4割は苫小牧市の所管だが、苫小牧市は全国に8カ所ある国際中核港湾の一つとして指定されており、北海道の港湾取り扱い貨物の5割が苫小牧港で占められている。現在、新千歳空港は24時間運用の空港として実現を図るために住民との会合を進めている。また、苫小牧港は、北極海航路においても地理的な優位性を有しており、そうした両地域が物流の拠点として整備していくならば、さらなる発展の可能性を有している。

 さらに、苫小牧市の北には国立公園となっている支笏湖がある。その周辺の雰囲気はスイスの雰囲気に似ているのだが、スイスの製薬会社の研究所を誘致してもいいのではないか。そういう意味では、「カジノ」にいきなり舵(かじ)を切るのではなく、もっと苫小牧が持つ地理的優位性に着目して地域活性化を考えるべきだろう。

 ――苫小牧市のある胆振(いぶり)管内は東西に広がっている地域で、西側には室蘭市があります。苫小牧市の東側には、管内は異なっても太平洋岸に沿って幾つかの町が連なっていますね。

 苫小牧市の西側にある隣町の白老町(しらおいちょう)から東のえりも町まで、その地域は道内でも有数の馬産地となっている。日本の競馬産業を支えていると言っても過言ではない。話は戻るが、カジノをつくるというのであれば、競馬産業を含めてきちんとした位置づけがなければ、日高管内の一大競走馬産地が衰退してしまうことになりかねない。ちなみに、北海道の馬産地は単に競走馬を作るだけでなく、乗馬などを含めた観光地になっている。今でも、本州やアジアの国々から観光客が来ているが、今後、北海道の馬文化をアピールすることでさらなる観光地に成長していくだろう。こうした苫小牧市近隣の市町村を巻き込んだ活性化プロジェクトを示し、苫小牧が千歳市とともに北海道の産業の拠点としてさらに成長するならば、当然、日高管内の自治体は苫小牧に目を向けることになり、ともに深い連携を持つことになるだろう。

 ――現在、安倍政権はTPP(環太平洋連携協定)交渉を進めています。北海道にとって、TPPは大きな問題となっていますが。

 北海道農業は道内の基幹産業であることは間違いのない事実です。とりわけ北海道の農産物は新鮮で安全。本州の観光客も北海道のおいしい魚介類や農産物を使った食事やスイーツを求めてやってくる方が多い。そうした食材を提供する姿勢を持ち続けていけば、北海道農業は生き残っていくと確信している。ただ、TPPに関していえば、すべて国際標準に合わせなければならない、というものでもないだろう。農薬の問題一つ見ても、日本もかつては農薬を使っていたが、安全な野菜を作るために改良を重ね、また低農薬を目指して改善していった。そうした安全への努力を無視するかのように海外の農薬基準にしても構わない、というのは無神経であり、無謀だと言いたい。それは医薬品や医療機器の臨床試験に関しても同じことが言える。

 ――薬の話が出ましたが、櫻井市議は子宮頸がんワクチンの副反応に対して、被害者を救済するための会をつくられて活動しているということですが。

 子宮頸(けい)がんワクチンの接種は当初、現市長の公約だった。私も最初は、ワクチンを接種すれば、子宮頸がんにならないのであれば、それはいいことではないか、と賛成していた。ところが、副反応が出るという話が、テレビや新聞にチラホラ出るようになった時に、御社世界日報の月刊誌「ビューポイント」で特集掲載されているのを読んだ。そこで日野市の池田としえ市議が全国子宮頸癌ワクチン被害者連絡会の事務局長であることを知って、さっそく連絡を取り、その実態を知った。

 現在のところ、苫小牧市には重篤な副反応で苦しむ被害者はいないということだが、それで済まされる問題ではない。接種してから半年後、1年、2年で発症する人もいるわけで、注意深く見つめていかなければならない。今年(平成26年)11月23日に「被害者家族が語る子宮頸がんワクチンの実態」と題する報告会を開き、70人近い苫小牧市民が参加した。

 このワクチンの問題は、接種後の副反応を引き起こす割合が極めて高いこと。さらに、重篤な副反応になる可能性が大きいことに加えて、短期で発症するケースと1年後、2年後というように遅延性の副反応があることなど、深刻な課題を有している。従って、長期にわたって検証する必要がある。また、被害者が出た場合の救済支援体制も今の段階から構築していく必要があると考えている。

 さくらい・ただし 北海道南西部に位置する苫小牧市。北日本を代表する総合工業都市である。同氏は大東文化大学卒業後、業界紙に入社。その後、国会議員秘書を経て1995年に苫小牧市議に初当選。同市議2期務めたのち、2003年に苫小牧市長に当選。その後、2011年に苫小牧市議に当選。現在3期目。景気が低迷する北海道にあって、景気浮揚、産業振興は必須の課題だが、同氏は苫小牧の発展こそが、その道を開くと主張。そのためには、隣接する千歳市との広域合併が必要だと訴える。その一方で「子宮頸(けい)がんワクチンの問題を考える苫小牧の会」を立ち上げるなど市民の生活・安全にも気を配る。1954年2月生まれ、60歳。室蘭市出身。