子宮頸がんワクチン集団訴訟、後手に回った国の対応に怒り
特報’16
損害賠償だけでなく恒久対策を
国が承認した子宮頸(けい)がんワクチンの接種で健康被害が生じたとして、23都府県に住む15~22歳の女性63人が7月27日、国と製薬会社2社を相手に1人1500万円の損害賠償を求める初の集団訴訟を東京、名古屋、大阪、福岡の4地裁で起こした。背景には、回復の見通しも立たず将来への不安を抱く被害者らに対する国の対応が不十分な上、病院や学校などで詐病扱いされるなど、無理解に曝(さら)された少女やその家族の苦悩がある。(佐藤元国)
「もとの体に戻して」
病院や学校で詐病扱いも
今回の提訴は、同ワクチンを定期接種と位置付けながらも、一方で積極的接種勧奨を控えるといった曖昧な対応を取り続ける国に、被害者が業を煮やし、法的責任を明確にすることを求めたものだ。提訴後の記者会見で、原告や弁護士らは国、企業の責任を明らかにすることで、損害賠償だけでなく医療体制の整備、治療法の研究、就学就労の支援などの恒久対策を国から引き出すことを目指す姿勢を示した。
提訴したのは東京28人、名古屋6人、大阪16人、福岡13人で、原告の平均年齢は18・4歳。いずれも青春の真っ只中に同ワクチンの被害に遭い、運動障害や記憶障害、不随意運動、倦怠感など多様な症状が出た結果、日常生活に支障を来したり、進路変更を余儀なくされたと訴えている。
弁護士の夢を諦めざる得なかった東京訴訟原告の酒井七海さん(21)は、「この裁判を通じて、国や製薬会社が私たちに起きている副反応の存在を認め、実態を把握し、日本全国どの地域でも同じように治療を受けられる医療体制や、私たちが将来自立した生活を送れるような支援体制がつくられることを望みます」と語った。
恒久対策を求める背景には、第一に、重複して表れる多様な症状のせいで、満足な日常生活を送れないのに十分な補償が受けられない「将来への不安」がある。加えて、副反応の病態について理解のある医療機関が少ないため、少しでも理解のある医師、有効な治療を求めて、地元を離れてでも多数の診療機関を受診しなければならない現状への強い不満がある。
HPVワクチン薬害訴訟全国弁護団代表の水口真奈美弁護士は「現在、被害者に適用されているワクチンの過失を立証しなくても受けられる無過失補償の救済では限界がある」と指摘。HPVワクチンの副反応症状は、良くなったり、悪くなったりを繰り返す特殊性を持っているとした上で、「実際に学校に通えなかったり、日常生活で援助が必要な状況にあっても、その病態の特殊性から年金の給付などがある重度の障害認定を受けることができない方が数多くいる。そういう方には、ほとんど医療費と定額の医療手当しか支給されない」と訴える。
また、東京訴訟原告の園田絵里菜さん(19)が全身の痛み、失神、倦怠感、歩行障害などに苦しんでいても、「学校や病院からは詐病と言われ『子供が言っていることだから』とか、『症状は言い訳だ』と言われて、話すらまともに聞いてもらえなかった」と語るように、無理解な対応に苦しむ少女は多い。
さらに、指定協力病院が幾つあっても、厚生労働省が副反応の原因だと発表した「心身の反応(機能性身体症状)」という言葉だけで病態が判断され、実際に起こっている症状を診てもらえていないと感じる原告の不信感は大きい。
水口弁護士は「被害者が今一番望んでいるのは、もとの体に戻って前と同じような生活をすること。そのためには医療体制の整備、治療法の研究開発、学業の支援など多角的な将来にわたる恒久的な支援が必要」と強調。訴訟の意義については「現在、治療のための研究も行われているし、拠点病院もあるが、それは法的責任に基づいたシステムではなく、お金の掛け方も全然足りないし、内容においても被害者の声がきちっと反映されたものにはなっていない。この裁判を通じて、もっと根本的な被害救済、原状回復に近づけることをやっていきたい」と語った。






