子宮頸がんワクチン、訴えに真摯に耳を傾けよ


 全国の若い女性63人が加わった子宮頸(けい)がんワクチン接種に関する初の集団訴訟は、近年強まっている医療不信の典型的な例と言えるだろう。

 子宮頸がんを減らしたいとの職業的な使命感から接種の推進を強く支持する医療・行政関係者は少なくない。しかし、それが過剰となり、さまざまな症状に苦しむ少女やその家族の声に、真摯(しんし)に耳を傾ける謙虚さがなくなっていたのではないか。医療従事者が最も大切にすべきことは、目の前の患者の苦悩に寄り添う姿勢だろう。

 若い女性が初の集団訴訟

 集団訴訟は、国が有用性の無い医薬品を承認したことや、定期接種の対象としたことは違法だとし、製薬2社には製造物責任があると訴えている。接種後、全身の痛み、失神、歩行障害などで苦しむ原告の一人は「学校や病院からは詐病と言われ『子供が言っていることだから』とか、『症状は言い訳だ』と言われて、話すらまともに聞いてもらえなかった」と語った。

 このほか「ワクチンが原因だと考えることをやめることから始めましょう」「こんな状態は見たこともないし、あり得ない。精神科に行きなさい」と、心ない言葉を投げ付けられたという訴えが数多くある。

 健康被害とワクチン接種との因果関係については、専門家の間でも意見が分かれる。ワクチンが過剰な免疫反応を引き起こし、それが神経障害などにつながっているとみる医師がいる一方、世界保健機関(WHO)は安全上の問題を否定するとともに、その有効性を認めている。

 だが、ワクチン接種後の体の異変を副反応ではないかと思った少女たちの声に、真摯に耳を傾ける行政や医療関係者が少なかったのは明らかだ。彼女たちの苦悩の深さと将来への不安の強さに比べ、国の対応はあまりにお粗末で、結局、接種と症状の因果関係とその責任が司法の場で争われることになったのだ。

 子宮頸がんワクチンが2013年4月に定期接種となったことについては、早くから疑念の声があった。その前の月にはすでに健康被害を訴える少女の保護者らが被害者連絡会を結成している。しかも、先行接種した海外で重篤な副反応が出ているとの情報が流れていた。

 また、厚生労働省の第3回ワクチン評価に関する小委員会(10年)では次のような報告があった。「ワクチンを接種した集団において子宮頸がんが減少するという効果が期待されるものの、実際に達成されたという証拠は未だない」。さらには「薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会」(09年)資料には、厚労省の指導で国内臨床試験の終了を待たずに、同ワクチンの製造販売承認申請がなされたことを示す記載がある。

 法廷での疑念解明に期待

 こうした事実から、全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会事務局長の池田利恵さんは本紙のインタビューで「効果が不確定で臨床試験も済まず、安全確認も十分できていないワクチンを、(子宮頸がんの)死亡率減少効果の検証のために少女たちに接種させるということ」と憤っていた。法廷で、これらの疑念が解明されることを期待したい。