弱すぎる野党は政治の禍根

細川 珠生政治ジャーナリスト 細川 珠生

緩む安倍政権の緊張感
参議院の在り方も検討せよ

 投票日を待たずして、結果が予測できた今回の参院選。しかし、たった一瞬のマイナスイメージで戦況は180度変わることもあり、直前まで予断を許さないと見守ってきたが、結局は、「無風」のような選挙だった。結果も、事前報道ほどではないものの、自民党の大勝には変わりなく、これだけ盛り上がらなかった国政選挙も、私が知る限りでは初めてではないかと思う。

 その原因として、二つのことを指摘したい。

 一つは、野党のあまりの弱さだ。政党としての弱さ、候補者の弱さ、政策の弱さを要因とする野党の弱体ぶりに、国民の選択肢とはならなかったことにある。政権交代からわずか半年で、支持率も高いままの安倍自民党政権に対抗するためには、大胆な選挙戦略が必要だった。政策が一致しないまま合流しても、「野合」といわれるかもしれないが、票の分散化を防ぐためには、ある程度の「野合」も致し方ない。安倍政権に対抗するためだけの政策の一致があれば、今回の選挙では十分だったように思う。

 例えば、エネルギー政策、TPP(環太平洋連携協定)、消費税、憲法といった政策で勝負することはできたのではないだろうか。現に東京では、「当確」間違いなかった自民党の候補者が新人でもないのに、5位ぎりぎり当選であった。代わって先に当確を決めたのは、反原発を掲げる共産党と無所属議員であった。東京の価値観がオールジャパンではないが、最大の票田である東京で、このような結果が出たことは、安倍政権の原発再稼働の方向性に、国民は「NO」とまではいかないものの、少なくとも「待った」をかけていることは事実だろう。

 TPPについても、国民からは「よくわからない」という声が大きい。関係する業種によって、賛否も変わってくる。与党は政府方針が決められればそれで進んでいくしかない。その中で国民が冷静に判断するには、野党の「情報提供」が必要なのである。消費税増税は規定路線かもしれないが、まだ株価上昇と円安の恩恵しかない日本経済で、来年4月から増税するとどうなるかという、具体的な予測を示すなど、野党の役割は多々あったはずである。

 二つ目は、一つ目の原因と多少矛盾することではあるが、参議院そのものも問題である。ねじれ現象が続いた中では、参院が国政を滞らせる存在とみられてきたが、今回、改めて参議院の存在意義が問われたのではないだろうか。現憲法下で、貴族院から参議院へ形を変え、二院制が残された当初は、今でいう、有識者のような学者など、政党に属さず、権力闘争や政治の駆け引きに巻き込まれない立場で政治にかかわっており、それは衆議院に対して価値のある存在だった。

 それが今や政党の勢力拡大のための存在になり、よほどの知名度がない限り、無所属で戦うことは不可能になってしまった。東京や沖縄で当選できるとはいっても、ほかの選挙区ではまず無理である。高い見識を有する候補者というだけでは当選できず、政党の駒のようにならなくてはならないのであれば、衆議院議員と何が違うのかという疑問がますます大きくなる。

 衆院選からまだ半年では、いくら主権者とはいえ国民もこのような参議院の選挙を積極的にとらえていくことも、難しかったのではないだろうか。いよいよ、参議院の在り方を真剣に考えていくべきだろう。選挙制度改革に関する第三者機関を作るのと同じように、参議院の在り方も、第三者機関で専門家がしっかり議論していくことが必要だ。

 選挙が終わり、衆参のねじれが解消され、安定した政治基盤ができたことを歓迎する声が大きいようだが、一方、政権がどこまで緊張感を持ち、国民に寄り添った政治ができるかは、対抗勢力の弱体化によって逆に難しくなりそうである。

 加えて、安倍政権だからこそと期待している憲法改正には、非常に中途半端な結果となった。衆議院ではいわゆる改憲勢力といわれている政党の議席は、4分の3超おり、改憲の発議が可能だが、参院選では、これだけ自民党が大勝し、改憲勢力といわれている政党の議席をかき集めても、3分の2には、19議席足りない。もしこれから3年間、国政選挙がないのであれば、この間に、国民の間にもっと憲法が浸透するよう、政治も、マスコミも、あらゆる努力をすべきと思う。

 憲法をよく知っている国民は、ほんのわずかだ。補則も入れ103条あるという、ただそれだけのことも、どれだけの国民が知っているだろうか。ましてや、何がどう問題なのかという具体的な問題点を、明確に、自信をもって示せる国民は、それが仕事にかかわらない限り、いないといってもいいのではないかとさえ、思う。安倍総理は、国民に浸透するには、時間が必要という認識があるようだが、まさにその通りであり、だからこそ、政治は、国民に憲法を考えさせる機会をもっと積極的に提供していくべきである。

 安倍総理は、憲法改正を何としてでも実現するその道筋をつけるためにも、積極的に憲法について語っていってほしい。

(ほそかわ・たまお)