【社説】敵基地攻撃能力 保有認め日本の安全を守れ


衆院本会議で所信表明演説に臨む岸田文雄首相=6日午後、国会内

 岸田文雄首相は所信表明演説で、第2次安倍政権が策定した国家安全保障戦略や防衛計画の大綱などを1年以内に改定すると表明するとともに、弾道ミサイルを相手国領域内で阻止する敵基地攻撃能力の保有について「あらゆる選択肢を排除せず、現実的に検討していく」との考えを明らかにした。

 北朝鮮や中国、ロシアが新型ミサイルの開発を進める中、抑止力強化のために敵基地攻撃能力の保有は欠かせない。

北や中露の脅威高まる

 北朝鮮はここ数年、長射程の弾道ミサイルの発射実験は自制しているが、目標に向け変則軌道で飛行する新たなミサイルの開発・整備を進めており、軍事的な脅威が高まっている。中露両国が開発を急ぐ極超音速ミサイルも、わが国の安全に対する重大な脅威となりつつある。

 大気圏の内外を放物線状に飛ぶこれまでの弾道ミサイルは、飛ぶ高度が高いため地上のレーダーなどで探知しやすく、放物線状の軌道を描くので目標地点も予測しやすかった。

 しかし極超音速兵器の場合、発射後大気圏内に戻ると低い軌道を長時間飛翔し目標に接近するため、地平線で遮られレーダーが早期にミサイルを探知することが難しい。また変則軌道を取るミサイルは高度や方向を変えられるので、迎撃が非常に困難になる。

 こうした北朝鮮や中露のミサイル関連技術の向上は、わが国の弾道ミサイル防衛システムの信頼性を大きく低下させる危険がある。中止が決定された陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」計画に代わり、新たな「イージス・システム搭載艦」2隻の導入が予定されているが、その効果は限定的と言われる。

 また現時点では、米国も極超音速兵器に対処し得る有効な防衛システムを有しておらず、米軍に反撃を依存することにも限界がある。このため、わが国の安全が危殆に瀕(ひん)する恐れが高い場合には、日本に攻撃を仕掛けようとしつつある相手国のミサイル基地などを破壊する能力の保有を自衛隊に認める必要性は高まっている。

 自衛のために敵基地攻撃能力の保有を認めることは、憲法に違反するものではない。既に半世紀以上も前に政府は「(わが国に)攻撃が行われた場合、座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とはどうしても考えられず……他に手段がないと認められる場合は誘導弾などの基地を叩くことは自衛の範囲に含まれ可能」(1956年2月29日の鳩山一郎首相の国会答弁)との考えを示している。「自衛権発動の要件に該当すれば、他国の領域における武力行動は憲法上許される」との見解を歴代内閣も引き継いでいる。

長射程兵器の開発急げ

 北朝鮮だけでなく、中露のミサイルの脅威も急速に高まっていることで、わが国を取り巻く安全保障環境は冷戦後最も厳しくなっている。

 連立与党の公明党は消極的と言われるが、わが国の安全を確保するには、敵基地攻撃能力の保有を認め、情報収集能力の強化や長射程兵器の開発・整備などを急がねばならない。