【社説】憲法改正「国のかたち」の論議深めよ
衆院選の投開票日まで残り1日となった。これまでの選挙戦で、憲法改正をめぐる議論が低調だったことは残念だ。
衆院選は政権選択選挙と言われる。各党は「国のかたち」を示す憲法をどのように改正するか、論議を深めることが責務のはずだ。
衆院選での議論低調
自民党は2018年3月に①9条への自衛隊明記②緊急事態条項の創設③参院選の合区解消④教育充実――の改憲4項目を策定。岸田文雄首相(自民党総裁)は先月の総裁選で、改憲について「総裁任期中に実現を目指したい」と明言した。
衆院選公約では「日本国憲法の改正を目指す」として「初めての憲法改正への取り組みを、更に強化」すると訴えている。しかし、首相が選挙戦で改憲にほとんど言及しないのはどうしたことか。
覇権主義的な海洋進出を強める中国や、核・ミサイル開発を進める北朝鮮の脅威が高まり、日本を取り巻く安全保障環境は悪化している。ミサイル攻撃を実効的に阻止するため、首相は敵基地攻撃能力の保有を「選択肢の一つ」と述べている。確かに、保有は喫緊の課題である。
ただ戦後日本の防衛政策は、憲法9条に基づく「専守防衛」の原則に縛られてきた。敵基地攻撃能力保有が具体的に検討された場合、野党や左派系メディアがこれまでの抑制的な防衛政策との整合性を問い、反対を唱えることは容易に想像できる。
15年9月に制定された安全保障関連法は、集団的自衛権行使を一部容認したが、全面的に行使できないのも憲法9条の影響が大きい。集団的自衛権を全面行使して同盟国の米国や友好国との防衛協力を強化し、中国や北朝鮮に対抗していくには、やはり9条の改正が欠かせない。首相は日本の安全保障のためにも改憲を訴えるべきだ。
一方、立憲民主党は公約本体の「政権政策」では憲法に触れず、160㌻以上ある「政策集」に記しただけだ。枝野幸男代表は「新型コロナウイルス禍で憲法に膨大な政治的エネルギーを使っている余裕はない」と述べている。
だが、コロナ禍は現行憲法の問題点を浮き彫りにしたと言っていい。コロナ禍で欧米ではロックダウン(都市封鎖)など厳しい私権制限を伴う措置が取られた。一方、コロナ対応の特別措置法に基づく日本の緊急事態宣言では、不要不急の外出自粛要請に強制力はない。
これでは有事への対応として不十分だ。憲法に私権制限も可能とする緊急事態条項を創設することは、感染症だけでなく、外国からの侵略や大規模な自然災害に対処する上でも大きな課題となる。
有権者の理解広げよ
各党の中でも、特に自民党は結党時の「党の使命」において「現行憲法の自主的改正を始めとする独立体制の整備を強力に実行」するとしている。
現行憲法は一度も改正されていないが、制定からの七十数年で国内外の情勢は大きく変化した。新しい時代に即した憲法に改正できるよう、自民党は改憲論議をリードして有権者の理解を広げていくべきだ。