政権選択と立民共闘、消え去った二大政党の理想
19日公示の衆院選はいよいよ明日(31日)、投開票となる。岸田文雄首相の就任から史上最短の10日で衆院が解散され、それから17日で投開票という短期決戦だが、事実上の政権選択選挙だけに、与野党とも総力戦を繰り広げている。
今回の衆院選の特色は、野党第1党の立憲民主党が初めて共産党と「限定的な閣外協力」まで合意し、選挙協力を実現したことだ。
ただ、立民と共産との衆院選での選挙協力は今回が初めてではない。2017年の前回選挙でも、小池百合子都知事率いる希望の党に野党第1党の民進党が合流する中、袂を分かった枝野幸男代表らが立民を結党し、真っ先に取り組んだが共産との選挙協力だった。
16年参院選で先鞭(せんべん)をつけた民進に倣って、「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」(以下、“市民連合”)を媒介にし、憲法9条の改正反対、安保法制などの白紙撤回、原発ゼロの実現(再稼働は認めず)などの政策推進を約束して、社民党を含む3党で候補者を一本化した。
小池都知事の「排除」発言による希望の失速に大きく助けられたが、結党間もない立民が55議席を得て野党第1党に躍り出た背景には、共産の協力があったわけだ。その後、旧国民民主党との合流などを経て旧社会党並みの巨大野党になった。
それでも立民が衆院選のために準備したのは“市民連合”を媒介に、共産、社民にれいわ新選組を加えた4党で「野党共通政策」を結び、共産との閣外協力合意に基づく選挙協力体制の構築だった。国民との調整も含め、289小選挙区のうち213で野党候補を一本化し、「政権の選択肢をつくれた」(枝野代表)と勇躍選挙に臨んでいる。
だが、政権の選択肢とはいうが、民主党以来、野党第1党が標榜(ひょうぼう)してきた「政権交代可能な二大政党制」(以下、二大政党制)の一翼を担うという理想には言及せず、「自公政権を倒し、新しい政治を実現する」という対決色一辺倒に変わってしまった。
小選挙区制導入の大義の一つでもあった二大政党制の実現には、実は前提条件があった。民主、民進、希望などが目指したのは「非自民非共産」の大きな塊だ。現行の自由民主主義と相容れない共産主義を目指し、米国が「世界の平和と安全…にとって最大の脅威」(党綱領)とする世界観を持つ共産との共闘で、二大政党制の一翼を担うとはいくら何でも言えないはずだ。
枝野代表は野党共通政策について「特に外交安全保障の基本的な考え方や天皇制など含まれていない」(日本記者クラブでの党首討論)と述べ、警戒心を和らげようとしているが、国民の玉木雄一郎代表は共通政策に加わらなかったのは、「外交安全保障やエネルギー政策、国の根幹に関わるところにおいては、理想論でなく現実論でしっかり向き合いたい」からだと述べている。
共通政策の第1は「憲法に基づく政治の回復」であり、「安保法制、特定秘密保護法、共謀罪法などの法律の違憲部分を廃止し、コロナ禍に乗じた憲法改悪に反対する」「沖縄辺野古での新基地建設を中止する」と明記している。
日本を取り巻く安全保障関係がいっそう厳しくなる中で、これをまともに実行したら日米同盟、ひいては日本の安保体制がどうなるか、旧民主党政権の失敗を思えば明らかなはずだ。
政治部長 武田 滋樹