奄美・沖縄 保護と観光との両立を


 日本政府が世界自然遺産に推薦している「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」を国連教育科学文化機関(ユネスコ)の諮問機関、国際自然保護連合(IUCN)が「登録は適当」と勧告した。

 7月に開かれるユネスコの世界遺産委員会で正式に決まる見通しだが、生物多様性への認識を深め、観光と自然保護の両立に国と地域そして国民がさらに取り組んでいく必要がある。

 世界自然遺産登録へ

 奄美・沖縄にはアマミノクロウサギ、ヤンバルクイナ、イリオモテヤマネコなど、IUCNのレッドリストに掲載された絶滅危惧種約100種を含む多くの希少種が生息する。アマミノクロウサギは、かつてユーラシア大陸にもいたが絶滅。現在は奄美大島と徳之島だけに分布し、「生きた化石」と呼ばれる。4島は日本にいる脊椎動物の6割に当たる約740種、昆虫類の2割の約6000種が生息する「生物多様性」が突出して高いホットスポットである。

 その価値は世界的にも認識されていたが、2018年5月、IUCNは登録延期を勧告。希少な動植物を保護するための対象地域が包括的に指定できていないことなどが理由だった。これを受け、政府は沖縄島北部の米軍訓練場返還地をやんばる国立公園に編入して追加するなど対象地域を再構成し、再挑戦。その努力が実った。

 最初の推薦で延期勧告となったのは、かえって良かったと言える。自然保護には一体的な取り組みが必要であることが確認されるとともに、地域振興と環境保護の両立へのより踏み込んだ取り組みが促されたからだ。

 希少種を襲う野生化したネコ(ノネコ)やマングースなどの外来種の駆除が強化された。西表島では年間の観光客数を33万人程度、1日の上限を1230人に設定した。

 世界自然遺産登録は、環境保護の取り組みを後押しすることになるが、政府や自治体にはその責任が課せられる。一方で地元には、これを観光振興に生かしたいという願いがある。この両立が今後の課題となる。

 環境保全のために観光客の人数を減らし、かつ収益を上げるには、エコツアーなど付加価値のある質の高い観光を提供する必要があるだろう。地域ごとの観光事業計画や、そのための人材の育成なども今後の課題だ。

 IUCNは、希少種の交通事故死を減らす取り組み、包括的な河川の再生戦略の策定、候補地周辺での森林伐採の適切な管理などを日本政府に求めている。アマミノクロウサギの昨年の事故死は奄美大島と徳之島で計66匹で過去最多となった。

 奄美・沖縄の特徴は「島に人が住んでいても、自然や生物多様性が比較的よく保存されていることだ」(吉田正人・筑波大大学院教授)という。この地域の保全と振興は、人と自然の共生という今日的なテーマへの挑戦ともなる。

 世界の宝を守りたい

 7月に世界自然遺産に正式登録されれば、日本で5件目となる。豊かな自然は日本の宝であると同時に世界の宝でもある。それを守る責任がまた一つ日本に課せられたと考えたい。