ナワリヌイ派排除するプーチン露政権
9月に下院選挙を迎えるロシアで、反政権勢力の封じ込めに向けた動きが活発化している。ナワリヌイ氏陣営のメンバーだけでなく、その支持者も下院選から閉め出すことを狙った法案が下院に提出された。同陣営がネットを通じて「統一ロシア」候補以外の候補への投票を呼び掛ける「賢い投票」運動を潰(つぶ)すことが目的とみられる。
(モスクワ支局)
下院選控え「賢い投票」潰し
支持者も被選挙権剥奪の恐れ
プーチン大統領は4月23日、次のような大統領令に署名した。「2021年5月4日から7日まで、勤労者の給与が保証された非労働日とする」。これにより5月1日のメーデーから対独戦勝記念日(5月9日)の振替休日の10日まで、ロシアは長い休暇となった。
しかし、人々が休暇を楽しんでいる背後で、社会への締め付けを強化する動きが急速に進みつつあった。下院に4日、過激派もしくはテロ組織、すなわち裁判所が「望ましくない」とする団体・組織に関係する者が、下院議員に選出されることを3~5年、禁止する法案が提出されたのだ。
字面だけを見れば当然ともとれる法案であるが、この法案には通常ではみられない特徴がある。裁判所が「望ましくない」と決定した時点ではなく、裁判所の決定から3年前にさかのぼって組織・団体に関係していた者も、被選挙権停止の対象としているのだ。
さらに法案は、組織に寄付などの援助をした人々や、何らかの形でその活動に関わった人々も「関与した者」に含まれると、対象を広く定義している。
なぜこのような法案が提出されたのか。法案に先立つ動きを見ると、その狙いが明らかになる。
露検察当局は4月、プーチン政権の不正を調査する「汚職との戦い基金」や、選挙運動やデモなどを主導する「ナワリヌイ本部」など、収監中の反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏が率いる3団体を、過激派組織に指定するよう裁判所に請求したのだ。
裁判所がこの請求を認めるのは確実とみられる。そうなれば3団体の活動は非合法とみなされ、メンバーに加え支援者も、最大で禁錮10年の刑事責任を問われる可能性がある。
状況を危惧した「ナワリヌイ本部」幹部のボルコフ氏は、裁判所の決定を待たずに29日、同本部の解散を宣言し「今後は自発的な運動として政権との対決を続けよう」と支持者に訴えた。
9月の下院選に向け同陣営は、与党「統一ロシア」候補以外の候補への投票を呼び掛ける「賢い投票」運動を展開し、プーチン政権と対決しようとしていたが、組織の解散により目算は大きく狂わされた。
しかし、自発的な「賢い投票」運動なら、実行できる可能性が残されている。
それを潰すために、法律不遡及(そきゅう)の原則に反するにもかかわらず「裁判所の決定から3年前にさかのぼって」組織・団体に関係する者から下院選への被選挙権を剥奪する法案が提出されたのだろう。
成立すれば、これまでにナワリヌイ陣営に何らかの接点を持った人々は、被選挙権を剥奪される可能性が出てくる。
また、恣意(しい)的に運用すれば、下院選で、「賢い投票」運動で投票を呼び掛けられた候補者の被選挙権を停止することも可能となろう。法案は通常の手続きよりも早く、18日には基本採択される見込みだ。
プーチン政権こそがロシアそのものであり、それを貶(おとし)めようとする者はロシアを貶める者、すなわち野党ではなく過激派であり、裏切り者である――。このようなイデオロギーに支配された状況が続くようでは、政権を批判する者たちへの仕打ちは、ますます苛烈になっていくだろう。