いずも「空母化」どう進める

狙いは太平洋の防空強化
広大な空域にプラットホーム

 昨年の12月に「防衛計画の大綱(防衛大綱)」と「中期防衛力整備計画(中期防)」が閣議決定された。中でも注目を集めているのは、海上自衛隊の「いずも型」護衛艦の改修だ。事実上の「空母」としての運用が可能になることが専守防衛に反するのではないか、との意見がある一方で、具体的な改修内容についての議論が不十分との声も上がっている。いずも改修をどう進めていくのか、専門家たちはどう見ているのか。(社会部・川瀬裕也)

STOVL機 F35B パイロットの課題も

 海上自衛隊のいずも型護衛艦は、全長248㍍・全幅38㍍・満載排水量26000㌧の日本最大のヘリコプター搭載護衛艦(DDH)。2015年に就役した1番艦「いずも」と17年就役の2番艦「かが」の2隻がある。乗員520人で、ヘリを最大14機搭載することができる。

護衛艦いずも

改修が決まった護衛艦いずも=防衛省提供

 主に他の護衛艦などと行動を共にしながら、哨戒ヘリで広範囲にて敵潜水艦を探知し、ヘリに装備されている対潜魚雷で攻撃を行う。

 またその大きさを活(い)かし災害派遣などでも力を発揮しており、いずもは16年の熊本地震で隊員と車両等の輸送を実施。かがは18年7月豪雨災害で入浴支援などを行っている。艦内には手術室もあり、場合によってはけが人や病人を収容して治療することも可能だ。

 今回の閣議決定は、短距離離陸・垂直着陸が可能なSTOVL機の艦上運用を可能にするもので、米国の最新鋭ステルス戦闘機F35Bの導入が検討されている。

 防衛省防衛政策局防衛政策課の松尾友彦企画調整官は、いずも改修の大きな目的は太平洋の防空にあると話す。「太平洋を含め、周辺国の軍事活動が活発化してきていることは間違いない事実」とした上で、松尾氏は「太平洋は広大な空域だが、限られた数の飛行場しかないのが現状。防空作戦を考える上で、いずものようなプラットホームがあると非常に有効。また緊急時に着艦できるため、自衛隊員も安心して任務にあたることができる」と説明する。

強襲揚陸艦「アメリカ」

米海兵隊の最新鋭ステルス戦闘機F35Bを搭載した海軍の強襲揚陸艦「アメリカ」=2016年11月、太平洋(米海軍ホームページより)

 いずも改修について、元自衛艦隊司令官の香田洋二氏は「航空戦力を高めることについては評価できる。ただ現段階では、現場の海・空自衛官の声が十分に反映されていないように思う」と疑問を投げ掛ける。

 香田氏によると、最大の問題は、海自にSTOVL機(F35B)を操縦できるパイロットがいないことだ。また香田氏は「F35Bは、短距離離陸・垂直着陸ができる代わりに、F35Aよりも航続距離や武器の搭載量などで性能が劣る」とも指摘する。

 これに関して松尾氏は、「STOVL機は、空自の部隊として運用する方向」と説明、「太平洋での任務は、相当広い空域での作戦であることには変わりない。何かあれば基地に帰らなくてはならないことなどを考えると、いずもでSTOVL機を運用できるようになれば、防空の幅は広がり、自衛隊員の安全も図っていける」と話す。

 現段階では、いずも改修の具体的な設計図は決まっておらず、同省は今年4月から、どのような改修が必要であるかの調査を始める予定だ。国防上必須事項である太平洋・南西諸島の防空を強固なものにするためにも、現場の声を取り入れながら、さらなる議論・検討を進めていくことが求められる。