レーダー照射事案に思う
元統幕議長 杉山 蕃
不審な韓国艦艇の行動
監視活動の行動基準整備必要
昨年12月中旬、日本海の我が国の排他的経済水域(EEZ)内で生起した海自哨戒機(P1型機)に対する韓国駆逐艦による火器照準電波発射について、双方の申し立てが正反対の趣で、一向に解決しない状態にある。
現代の艦艇搭載の対空レーダーは、主なものは対空捜索用のフェーズド・アレー方式による全周警戒型が主流である。問題となった射撃照準用のレーダーは、捜索用とは別にシャープなビームで連続的に目標を追尾し、精密な位置測定、未来位置計算を行うためのレーダーで、射撃管制システムの一環を成す。
今回の韓国駆逐艦「広開土大王」は、捜索用レーダーとして米国製SPS49型レーダーを、目標捕捉用にオランダ製MW68型レーダーを、そして射撃管制用にオランダ製STR180を搭載していることが公開されている。今回海自の搭乗員音声から「射撃管制(FC)レーダー波受信」の報告があるが、MW68あるいはSTR180の連続照射を受けたものと考えられる。
韓国側が公表した海自「P1」の飛行高度はかなり低く、捜索用レーダーでは追尾困難と推察され、ビームのシャープな照準用電波による追尾を行ったのではないかと推察している。他国の軍用機に対する射撃用レーダーの照射は、厳に慎むべき行為で、平時の軍事組織としては国際的非難を浴びるべきものであることは言うまでもない。ここで筆者が問題と考える事項を3点指摘したい。
まず第一点は現場で何が起きていたのかという疑問である。韓国側は故障あるいは要救助事態の北朝鮮漁船の人道的救助活動と公表している。確かに海自の映像では2隻の漁船らしい小型船が映っている。そうであれば、韓国側は、場所が我が国のEEZであることから、当局間の連絡、定時警戒監視飛行を行っている海自哨戒機の状況確認くらいで、事は収まったはずであり、そうでなければならない。
しかし、韓国側の艦艇は先述の3200㌧の駆逐艦および海洋警察の代表艦とも言える「ピカ一」のサンポンギ号5000㌧で、小漁船対応にはいかにも物々し過ぎる。しかも、映像を見る限り国籍を明示すべき旗は艦首艦尾マストに掲げていない。加えて海自機の国際共通周波数での呼び掛けに応じない状況は、まさに胡乱(うろん)臭い行動と言うべきである。ましてや北朝鮮船舶については、国連決議によりその不正行動を厳しく取り締まられている状況下、韓国は何をしようとしていたのか、はなはだ疑問である。「丸腰」の哨戒機に威嚇飛行と称する苦しい言い訳。さらに他の事例を引きずり出し、問題の焦点を他に転嫁しようとする魂胆が顕著で、この面の追及を緩めてはならない。
第二の問題点は、海自哨戒活動にある。海自機に対する射撃管制用レーダーの照射は、沖縄地区において中国艦船が行い外交問題化した前例がある。そして今回、韓国海軍からの事案である。現場の判断として、事態の悪化を防ぐため触接を中止したようであるが、これもやむを得ない処置と考える。
しかし、トータルとして顧みれば、我が国周辺海域の監視活動という重要な活動を実施中、我が国の経済水域で、隣国の艦艇および漁船の不審な活動を発見したにもかかわらず、レーダー照射という威嚇的行動に対応できず、早々に退散したということでもある。あるいは、韓国側は我が国の経済水域での不審な活動から目をそらすために、あえて射撃管制用レーダーを照射し、問題の焦点を意識的にくみしやすい方向に持っていったという穿(うが)った見方もできる。
やむを得ぬ状況とは言え、今後のことを考えると、この程度の事象には十分対応できるよう、そして「状況の確認」という監視活動を全うできるよう行動基準を整備し、動じない対策を立てることが求められる。例えば、最小接近距離を対空機関砲射程外とし、かつ超低空飛行で、照準継続を困難にすることや、対空ミサイル用に自己防御用のチャフ・フレアーを常時装備し、レーダー照射を受ければ即時使用して、電波照準を無効にする等の対策である。警戒監視活動を行う上で、十分の装備とその使用、洗練された行動基準による整斉たる対応行動が何より相手に無力感を与え、事態の不必要な発展を防止する最良の手段なのである。
さらに第三点として、統合運用の重要性を提言しておきたい。それは、海上監視活動をレーダー組織のモニター下で行うことである。航空自衛隊には海上監視に高い能力を持つ「E2C」警戒機がある。このところ沖縄方面での各種事案から多忙を極める部隊であるが、機数増強により哨戒活動を支援する、あるいは海上自衛隊自身がE2部隊を新設するのも一案である。今回の事案でもE2が派遣できれば、対空脅威の域外から韓国・北朝鮮の船舶のその後の行動も掌握できるし、警戒監視活動に一層の充実が期待できる。前回紹介した「ヘリ搭載艦」の空母化の事業とも関連し重要な案件と考えている。
四面環海の我が国は、周辺海域の平穏無事が何よりの優先事項。残念ながら南西海域、日本海海域で不本意な事象が起こりつつある。ここ一番、原点に戻って周辺海域保全の努力を充実していくべきことを訴えるものである。
(すぎやま・しげる)