引きこもり「8050」問題、長期化と親の高齢化で困窮

 若者の問題と思われてきた「引きこもり」が本人の中高年化と、それを支える親の高齢化という深刻な課題に直面している。親子で社会から孤立し、生活困窮に陥るケースも見られる。家族への支援とともに、自立を後押しするための相談窓口の整備、居場所づくりなど、行政と地域、NPOが連携した取り組み強化が急務だ。(森田清策)

「心ほどける」居場所が必要
期間は「7年以上」が35%

 今年1月、札幌市のアパートの一室で、母(82)と娘(52)の遺体が発見された。二人暮らしだった。ともに低栄養状態で、先に母親が、そのあと娘が死亡したと見られている。娘は長年引きこもり状態で、母親の年金で生活していた。

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「自己有用感」が引きこもりの「卒業」につながると語る松本むつみさん(中央)、左は「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」共同代表の伊藤正俊さん=3月、東京都大田区

 「本人の中高年化には注目していたが、親も一緒に高齢になっていることを見落としていた」

 こう語るのはNPO法人「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」の共同代表、伊藤正俊さん。今年3月、東京都大田区で開催した事業報告・講演会で、「家族会も20年やってきて、支部長が70代、80代になった。60代半ばの私は、若いほう」と家族の高齢化を訴えた。

 不登校や就職活動の失敗のほか、人間関係でのつまずきがきっかけとなって始まることが多いとされる引きこもりだが、その定義は「仕事や学校に行かず、かつ家族以外の人との交流をほとんどせずに、6カ月以上にわたって自宅にとどまり続けている状態」(厚生労働省)。買い物などで時々外出することがある場合も含まれる。

 長年、若者の問題と思われてきたが、「8050」問題と言われる深刻な事態が顕在化してきた。80歳の親が50歳の子の面倒を見るケースが増えているのだ。こうした親子は、社会からの孤立によって生活困窮に陥り、公的な支援が必要となっている。

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 背景には、引きこもりの長期化がある。家族会の調査によると、本人の平均年齢は2004年には27・6歳だったが、今年の調査では34・4歳に上昇。平均期間も13年間で4年余り伸びて11・8年になっている。

 「本人も苦しいが家族も苦しい。本人は自意識の中で苦しみ、両親は自責の念を持っている。……どこにも話せない苦しさ、相談できない孤独感がどこか(心の)隅にあり、それでなかなか解決に向かわない」と、伊藤さんは長期化する理由を語った。札幌市の母娘の場合、母親が人の世話になるのを嫌い、誰にも相談しなかったようだ。

 内閣府が初めて引きこもりの全国調査を行ったのは10年。調査の対象は15~39歳で、推計で約70万人に達した。15年に2回目の調査が行われ、この時は54万人に減ったが、期間は「7年以上」が約35%で、1回目調査の2倍超となった。

 5年間で16万人減った要因については、スクールカウンセラーの設置などの支援策の効果、と国は見ている。しかし、支援団体などからは「40歳以上」が調査対象に入っていないことから、実態を正確に反映していないのではないか、との疑問の声が出ていた。

 調査対象が40歳未満になったのは、引きこもりは10代、20代の問題と捉えられていたからだが、状況が改善しないまま年齢を重ねて40歳以上になり、それに伴って親も高齢化していると考えられる。事態を重く見た政府は今年度中に、40~59歳を対象にした全国調査を行い、家庭・経済状況を把握し、今後の家族支援などにつなげる方針だ。

 また、引きこもりを長期化させないための早期発見・介入を可能にする対策にも課題がある。「ひきこもり地域支援センター」が各都道府県と政令指定都市に設置されているが、「引きこもりは分かりにくいので、各市町村でどこが(相談の)窓口になるのか、見えていない」(伊藤さん)。

 一方、家族会連合会の報告で注目されたのは、地域の居場所づくり。兵庫県宍粟市のNPO法人ピアサポート「ひまわりの家」は、小学校教諭だった松本むつみさんが退職後に始めた古民家・ガーデンカフェがきっかけとなって生まれた。その居心地の良さに、自然と社会に出ることのできない若者が集まるようになり、やがて彼らが認知症や目の不自由な人たちの支援に関わるようになった結果、6年間で7人が引きこもりを「卒業」していった。松本さんは、ボランティア活動が「自己有用感」につながり、「心がほどけていく」ことになったのだろうと語った。

 松本さんの報告は、本人が社会に出ることにつながる居場所の存在が問題解決に大きな役割を果たすことを示唆しているが、その居場所づくりにNPOと連携して取り組むことができるのか、地域の力が試されている。